第16話 経路

第16話 経路


 同調って、これちょっとすごい。自分以外の拍動を自分の中に感じるなんてことあると思ってなかった。


「うん。非常に順調だな。魔法使い同士が同調すると、お互いを一つのものとして感じることができたり、教師役と同じ出力量まで魔力経路を広げることができる。もちろん一度にそこまで広がるわけではないがな。その他に同調状態なら魔力を融通しあったりすることもできる。大規模な儀式魔法は複数の使用者による同調が絶対に必要になるな」


 オリアナ先生の声ははっきり聞こえているのに、同時にすごく遠いところで起きていることのようにも感じる。

 アンナさんを抱きしめているのに、アンナさんに抱きしめられていると感じる。

 部屋中を飛び回る緑色の小鳥や、部屋の床でうずくまる茶色の亀のようなもの、オリアナ先生が作った氷のアンナさんの周りでは小さな青い首長竜が首を休めている。


 自分の周りにあるすべてのものが把握できるような気分。


「なんか……、この部屋、色々います、ね?」


 満足そうに頷いているオリアナ先生。


「ん、そうか、見えるか。本当に魔法出力が低いだけで思っていたより魔法との親和性は高いようだな。魔法がない世界から来た人間としてはなかなか優秀じゃあないか、少年。よし、アンナ、とりあえずここまででいい」


「……、っはい!」


 アンナさんの手が離れていくに従い、一つになっていた感覚が急激に抜けていく。喪失感からアンナさんの左手をつかもうとしたが、もう左手は動かなくなっていた。


「手が……」


 さっき見えていた色々なもの、多分精霊なんだろうけど、彼らも見えなくなってしまった。さっきの状態でないと見えないのか?


「自己強化を行わないと、まだ満足に動かせる状態じゃない。寂しいのはわかるが、離れていく女に縋りつこうとする男というのはあまり見た目がよくないぞ? 同調を解くときに喪失感があるのは仕方ないがね」


「仕方ないと思うなら指摘しないでくださいよ……」


 なんでいちいち羞恥心を煽るようなこと言うんだ。


「アンナもだ。これからもやってもらわないといけないんだから、いつまでも恥ずかしがるんじゃない」


 俺から身を放したアンナさんはこっちを向いてくれない。


「だって……こんな風になるなんて、聞いてないです……」


 両腕で自分を抱くようにしながら、俯きながら頭を軽く振るアンナさん。


「子供に対して行うときには、魔力の総量が小さいからお互いを循環する魔力の大半が教師役のものだからな。どこまで見えた?」


「怖いお爺さんが見えました。何百人も乗せてすごい速さで移動する部屋のようなもの、信じられないほど高い建物。マモルさんの感謝の気持ち。すごく離れたところにいる人とつながったり、話ができる薄くてきらきら光る板みたいなもの。他にも沢山……」


 えっ、何それ、そんなもんまで伝わっちゃうの? 俺はアンナさんのそういうのまでは見えなかったぞ。いやそれより、何をどこまで知られたんだ?! 場合によっては死ぬしかないかも知れん。


「あー、あの、アンナさん……」


 俺の声に反応して、アンナさんはますます小さくなってしまった。いやほんと何見たんですか?


「キミたちの魔法的相性は本当に良いようだ。だが、最初だから仕方ないが入り込み過ぎないようにな、アンナ。言ってもいないことが伝わってしまうのは場合によってはお互いに不幸しかないし、少年にとってもいい気持ではないだろう」


「はい……」


 そこでオリアナ先生はパチンと手をたたく。


「よし、この話はいったんここまでだ。空いている時間ずっと、とさっきは言ったが、これからは食後と就寝前、30分ほどを目途にやっていくといい。おそらく3日もすれば一般人と同じかもう少しいいところまで魔力経路が広がっていくはずだ。実際にきちんと魔法を使うはそれからだな」


「わかりました、オリアナ先生」


「あとは、クリスもやりたがるかもしれんが、複数の人間とつながるのは魔力経路の形成、拡張にあまりいい効果がないから、やらせないように。これから毎日来てやるつもりではあるが、毎回というわけにもいかないから、そこはキミたちも注意しておくんだ」


 俺あの子止められる自信ないんだけど……。と、アンナさんは勢い良く頷いた。


「はい! 任せてください! 絶対にマモルさんを守ります!」


 ええ、なんか凄い気合入ってる。アンナさんにとってそれほどの経験だったのか……。気になりすぎる。


「では、ここからは少年の世界の知識、この世界の知識なんかの情報交換をしていこう。気になることが山ほどあるんだ。たぶんキミもそうだろう? 少年」


 たしかに、この5日間で腐るほど知りたいことあるわ。正直助かる。


「では少し休憩がてらお茶でもしながら話し合おうじゃないか」


 そう言いつつ、オリアナ先生はちびっ子教師からちびっ子研究者へと雰囲気を変えるのであった。

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