第7話 冷却

第7話 冷却


シャツを着替え終わって一息ついていると、オリアナ先生がものすごい勢いで迫ってきた。でかくて怖いんですが。


「少年! どういうことだ今のは? 、とはどういうことだ? 相反する属性の魔法は同時に行使できない、ということになっている!」


 お、おう、全然説明しなくても注目しないといけないポイントは抑えてるのな。さすが先生。


「だからさっきの魔法は水の属性しか使ってないんですよ、オリアナ先生」


 アンナさんが割って入る。


「それでは説明がつかないわよ、アンナ。さっきの魔法には明らかに水属性以外の力が含まれていたわ」


 クリスも微妙に納得いってない様子。内容的に、彼女達には魔力の質みたいなのが見えてるんだろうか。こちらに目をやりながら更に言う。


「それに、わたしはまだお湯を出す感覚がわからないんだけど、説明してくれない?」


 あー、そこは実際やってみないとわかんないのでは……?


「そこはほとんどさっき言った内容で全部だよ。水を構成している小さな粒をより振動させると水が持っているエネルギー、温かさが増すんだ」


「それがわかんないって言ってるんだけど?」


 堂々巡りやん。


「クリス様もやってみたらいいよ。でもこれ以上水出すとタライがあふれちゃうから今あるお湯を冷やしてみたらどうだろう? もちろん火属性は使わずに」


「そもそも火属性で冷やすなんてことできないわよ」


「ならちょうどいい。水の状態変化に火属性は必要ないことの証明になるだろ?」


「わたしの質問に答えていないようだが?」


 でかいから圧がすごい。あんま覆いかぶさるように来ないでほしいんだが。


「世界のありとあらゆるものは目に見えないほど小さな粒でできているんです。その考えによると物の温かさっていうのは、その粒が物体の中で動き回る勢いの良さによって変動するんです」


「ふぅん?」


「アンナさんは、さっきお湯を出した時、普通に水を出すときよりも粒が強く振動した状態の水を生み出すようなイメージで魔法を使ったんだと思います。たぶんさっきの螺旋みたいな光の動きがそれなんじゃないかな、と」


「なるほどね……、面白いわ。クリス、冷やすんでしょ? やってみなさい。」


 さすがに自分がやる、とは言わないわけか、よかった。研究者よりは先生寄りの立場なんだな。


「やってみますけど……まだイメージできないのよね」


 そーっとお湯に手を差し込んでいきながら目を閉じる。


「さっきのアンナさんのやったことと逆のことをやればいいよ。今、そのお湯の中の水の粒は好き勝手に動き回っている。こいつらを自分の意思できちんと整列させるようなイメージでやってみて」


「整列……」


「そ、クリス様はお姫様なんだから傅かれるのは慣れてるだろ?」


「なんか嫌ーな言い方ね。まぁいいわ」


 そう言うと、集中に入る。


「水よ……従いなさい!その場に傅きなさい!」


 クリスの言葉と同時に青い光が滲みだすように手からタライ中へ広がっていく。 


「ッ!!」


 クリスが目を開いた瞬間水面に波紋が走り、一気に表面に薄氷が走る!


「おお!」


 凍るところまで行くのか!冷水までだと思ってたんだけど。


「……冷たぁい」


 だいぶ情けない顔になってるぞ。


「冷えたのは冷えたけど、凍っちゃうのは成功なの?」


「氷もお湯も、水の状態が変化したものとしては同じだからね。大成功だよ」


「すばらしい……」


 オリアナ先生、そのセリフ言う人確実にマッドなんだけど。まぁいいか。


「クリス様、今の感じで水を出せば、冷水どころかひょっとしたら氷が出せるかもしれない」


「やってみるわ!」


 すぅっと息を吸って、集中する。両手は前に。

 何となく嫌な感じがするので俺はタライから離れる。ついでなのでアンナさんも引っ張っておく。


「凍てる水よ! 私に従いなさい! 顕現せよ!」


 両手の先、10センチほどのところに青い光が渦巻き、20センチほどの丸い氷が現れた!

 ──ガツッ、ゴロン。


「お、おぅ。成功だ」


 なんか思ってたのと違う。


 ごろごろ転がる氷を取り上げ、オリアナ先生が呟く。


「確かに凍っているな。魔法に関する常識がひっくり返るぞ、これは」


 悪い顔ですよこれは。


「氷を生み出せる魔法使いは過去にもいた。だがその者たちでさえ、


 圧が、眼力が俺をめちゃめちゃ襲ってるんですが。若干金色に光ってるんですがあなたの目。笑顔なのが逆に怖すぎ。


「クリス、アンナ、後でいくつか聞きたいことがある。今後のために大変重要なことだ」


「は、はい……」


「わかりました、オリアナ先生」


 ほら、あなたの生徒さんも引いてますよ。やめましょうその笑顔。殺し屋かよ。


「さて、大変興味深い現象を見せてもらったが、とりあえず来た目的を果たさなくてはな」


 言葉と同時にグイっと抱き寄せられる。


「ぶふっ!」


 おっぱいが! ああ! 顔に! 顔に!


「何、心配するな少年、キミには魔法を使えるようになってもらう。他にもいろいろネタがありそうだ」


 ひぃ!幸せな気持ちが一瞬で旅立ってしまった……。やっぱこの人ただのマッドな研究者なのでは?

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