第6話 オリアナ先生
第6話 オリアナ先生
「ハイ、クリス、アンナ、元気にしてた?」
母ちゃんノックとともに入ってきたのはとてつもなくでかいお姉さんだった。俺より20センチ近くでかいから、確実に190センチを超えている。体格も身長に負けない程度にはしっかりしていて、そこらの男には力負けしなさそうな線の強さを持っている。
「オリアナ先生、5日前にも会ったじゃないですか。見ての通り、元気ですよ!」
「そうだったわね、まぁ元気が一番よ。アンナも元気そうね、メイド姿も可愛いわよ」
アンナさんに向かってウィンクしてみせながら楽しげに言う。
「オリアナ先生、お久しぶりです。先生もお元気そうでよかったです」
なんというか、この人は女の子にもてそうだなぁ。
「マモルさん、こちらは私たちに魔法を教えて下さった、オリアナ先生よ」
この体格で魔法使いなのか……。
「やぁ、よろしく、オリアナ・クインビーだ。我が国始まって以来初めて現れた、勇者以外の異世界人クン?」
握手を交わしながら自己紹介する。握手の習慣あるのな、こっちにも。
「は、初めまして、花房衛です、クインビーさん」
ん、やっぱりこの人なんかやってるな。手のひらの感触がとても魔法の研究だけやってます! って感じじゃない。剣、だろうか。
「うんうん、かわいいじゃない。とても勇者サマをあれだけボコボコにした子だとは思えないわね。でも……、オリアナと呼んでほしいな、姓はあまり好きではないんだ」
「あ、そう、ですか、ではオリアナさん、と。というか、なんでご存じなんです? アレ、そんなに有名になっちゃってるんですか?」
すると、オリアナ先生は、キョトンとした後、体を震わせて笑いながら言った。
「なんだ、フフ、気が付かなかったのかい、少年? あの時わたしもあの場にいたんだよ」
「ええっ!? いやどう考えてもあの場にオリアナさんはいませんでしたよ!」
いくらいっぱいいっぱいだったからってこんなでかい女を見逃すわけないぞ。
そこでクリスが肩をすくめながらこちらへ目線をよこす。
「マモルさん、オリアナ先生はちょっと変なのよ」
「お、言うようになったじゃないか、クリス。昔はわたしを見るだけで半泣きになってたお姫様だとは思えないね」
「それはもうやめてください! マモルさん、オリアナ先生はその日の気分で見た目が変わるの。あの時は私ぐらいの身長だったし、ローブをかぶっていたからわからないのも無理ないわね」
「はえー、見た目が変わる……?」
いやいや、40センチ以上伸び縮みするのかこの人?
「はっはっは、いや照れるな!」
「褒めてないですから!」
「マモルさん、オリアナ先生は少なくとも先々代の王が即位したときにはもうこの姿で王宮に出入りしていたという記録が残っているんです。見た目なんてあんまり意味のない人なんですよ」
小声でアンナさんが教えてくれる。ええ……この人マジで人間なのかよ。
「しかも耳もいいんだ、アンナ」
ものすごい笑顔の圧を感じる。こえーよ。
「優しくて強くて若い先生に師事できて大変うれしいですわ!」
「よろしい」
なんだこのやり取り、よろしくねぇよ。
「それで、少年が魔法使いたーい、って泣いてるって聞いたから、わたしが直々に来てやったわけだが」
泣いてねえよ。もう少年って年でもねえ。
「少年って年じゃない、なんてことを気にしているうちはみんな少年だよ」
ええ……。心の声に反応しないで。
「そんなことより、いったい何をやってたんだい? 誰か行水でも?」
まぁそりゃお湯張ったタライに三人頭突き合せてたら何やってんの、って話だよなぁ。
「今、アンナが火属性の魔法を使わずに水をお湯にしたんですよ! 凄くないですか?」
「なんだって? 火属性を使わない?」
「それで、その技術でお湯を生成できるはずだからって、今から試してみるところなんです」
「待て、何を言っている? 湯を生成……?」
あー、なんかこれはめんどくさいことになりそうな気がする。
「まぁとりあえず見てみてくださいよ。俺のいた世界には魔法なんてなかったけど、水がお湯になるための過程に何が起きているのかは解明されてたんで」
さっきの説明またさせられるのは勘弁。見てもらった方が早い。
「アンナさん、よろしく」
「はっ、はい!」
アンナさんはおもむろに集中し、またふわふわと髪をなびかせながら呟いた。
「水の粒よ……震えて、溢れ出せ!」
うっすらと青く光る螺旋がアンナさんの右腕を走り、そして──!
「うあっちいいいいいいいいいい!47度ぉ!」
熱湯風呂並みのお湯が俺を襲い、その場でのたうち回る羽目になるのであった。
リアクション芸人かな?
「きゃあああああああっ?! すいません、マモルさん、大丈夫ですか?」
「きゃあああ、早く、服脱いで! 火傷しちゃうわよ!」
「お湯……、お湯だわ。こんなことが…………」
三者三葉って感じですね。シャツを脱ぎながらそんなことを思うのであった。
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