第8話 魔力の検査
第8話 魔力の検査
「さて、そんなわけでまずはキミの魔力について調べてみようじゃないか」
そう言いながらオリアナ先生はサイドチェストの上にでかい水晶を置いた。直径20センチぐらいあるぞ。これが天然ものなら元の世界じゃ数百万はするなぁ。ていうかどこから出したんだよそれ。
「これは試しの水晶、という。わたしの作った魔道具だ。水晶、と言ってはいるが、モンスターの心臓部、魔核を加工したものだ。その人間が一度に放出できる魔力量を明るさで推測することができる」
おお、ファンタジーっぽい単語詰め合わせだな!
「まぁ詳しい説明はいいでしょ。早速右手で触れてみて」
うう、緊張するな……。ごくり。
意を決して水晶に触れるとそこからは目を焼くような光が──光が?うん?
「すっごいうすぼんやり光ってますね」
「ああ、これは薄暗い」
クリスとオリアナ先生のやり取りが心に痛い。俺のHPはとっくに0よ!
「まぁ魔法だけが人生ではないよ、少年! キミの良さは他にもたくさんあるさ!」
「マモルさん……」
死体蹴りやめてもらっていいですかバッドマナーですよ。特にこっちを気遣う様子のアンナさんの声が一番効きました。
俺が悲しみに打ち震えているとオリアナ先生はさらに声をかけてくる。
「では次に左手で水晶に触れてみよう」
「それなんか意味あるんすか」
「もちろんあるとも」
「そもそも自由に動かせないんですけどね……」
半信半疑ながら左腕を右手で持ち上げて水晶に手をやると、今度は先ほどよりも明らかに明るく輝き始めた。あれ? なんでだ?
「やはりな」
オリアナ先生は思わせぶりに一つ頷いた。
「もう手を放してもいいわよ、少年。前回うちに来た勇者サマもそうだったわ」
「右手は光らなくて、左手は光ったってことですか?」
オリアナ先生が笑う。
「違う違う、その勇者サマはどっちも光らなかったよ。魔法のない世界から来た人間は魔力を放出する能力がほとんどないんだ。使わない能力は退化する、当然だろう?」
あーそういうことか。
「でも、それだと左手では光った理由に説明が……、あ、治癒か?」
「なかなか察しがいいじゃないか、少年。花丸を上げよう」
子ども扱いしないでくださいよ。
「キミの左腕はここ5日間高出力の魔力に頻繁にさらされているからね。魔力の通り道を無理やりこじ開けられたんだよ」
えっ何その表現怖いんだけど。
「大丈夫なんですか? それ」
「記録にある限りは問題なかったようだよ。前回の勇者サマも、旅の間に何度も魔法の恩恵を受けていくうちに自らも魔法が使えるようになったそうだ。と言っても彼は自己強化しかできなかったようだがね」
「なるほど……」
「召喚当時の彼は魔法は使えないものとされたし、何より身体能力だけで単純に強かったから、正式に魔法について学ぶ必要はないと判断されたんだよ」
見てきたように言うんだな、っていうかこの人は見てきてるのか。
「最低限でも説明しておけば、彼がたった3か月で亡くなることもなかったかもしれないと思うと残念だよ」
えっ勇者ってチートで俺TUEEEEEじゃないの? そんな簡単に死ぬのか……。
「まぁ勇者のことについてはまたの機会に説明しよう。今のキミにはさほど関係がない」
まぁそうか。俺が勇者でないことは確定してるしな。
「とはいえ、キミの立場もなかなか微妙でね」
まぁそりゃそうだろう。元に戻るとはいえ、勇者に傷をつけたんだ。治療も受けられずにこの国を追放させられてもおかしくはなかった。
「クリスを守るように動いて正解だったよ、少年。あれがなければキミは今こうしていない。ま、王女を突き飛ばす無礼について色々言うのもいたがね」
あの場面では最良の選択肢だったと思ってるんだけどな。
「まぁそこはあまり気にしなくてもいいよ。あいつらはみんなクリスティーナ王女に夢中なだけだよ。王女の献身を独占してる少年に嫉妬しているのさ」
あーそういう。
「とにかく、勇者クンが聖王国から戻るのにあと10日はかかるはずだ。それまでに基本的な魔法の使い方を学んでおくといい。どうせ暇なんだろう?」
失敬な。まぁ暇だけど。
「勇者召喚も終わったし、わたしも暇なんだ。ちょうどいいから暇つぶしの相手になってもらうわ、たくさん聞きたいこともあるしね」
「ええ、なんにせよ魔法が使えるようにしてもらえるなんて願ってもないチャンスですよ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、オリアナ先生は笑いながら立ち上がった。
「今日は面白いものも見せてもらったし、有意義な時間だったよ。明日の午後からここで魔法について説明しよう。ではまた明日、少年」
なんというか、この人動きがいちいち劇的というか、きびきびしてて魔法使いって感じがしないんだよな。
「ええ、また明日、オリアナ先生」
「クリス、アンナ。片付けが済んだらわたしの部屋にいらっしゃい。さっきの魔法について詳しく聞きたいわ」
去り際二人に声をかけ、オリアナ先生は去っていった。
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