第3話 静養

第3話 静養


「ぐあああああぁ!」


 叫びながら飛び起きる。反射的に左腕を確認。ついてる。

 そうだった、治癒の魔法でつないでもらったんだった……。くそっ。


「毎日同じ夢で目覚めるじゃねーか、くそったれ」


 あれから5日経っている。

 あの後、俺の左腕はちぎれ、勇者は左目を失った。1本と1個だからおあいこだったんだが、治癒の魔法はちぎれた腕はつなげられるが失った器官はより上位の魔法でないと再生できないそうだ。そしてその魔法の使用者は隣国である聖王国にしか存在しない。さらに失われた器官の再生は傷を負ってから7日以内に行わなければならないそうで、クリスティーナが応急処置を施した後、その日のうちに聖王国へ運ばれていった。


 俺はというと、1日3度クリスティーナから治癒を受けつつ安静にして過ごすこと、ということで離宮の隅にある部屋で静養している。

 腕をつなげる、と言っても元の状態に戻すわけではないようで、つないでから三日間は痛みでのたうち回った。汗と涙とよだれと叫びを垂れ流しながら3日が経つ頃、ようやく痛みが引き始め、今日にはほとんど痛みはなくなった。

 その代わり、感覚もないし、指も動かせない。これ本当に神経つながってるのか心配になるレベルなんだが……。


 俺が目を覚ますとすぐにメイドのアンナが食事の用意をしてやってくる。

アンナは16歳。いつもニコニコ明るい素敵な女の子だ。あとおっぱいがでかい。この国では珍しい黒髪が本人的には少しコンプレックスらしいが、めちゃめちゃサラサラでよく似合ってると個人的には思っている。

 同じ黒髪の俺に対してシンパシーを感じてくれているようで、何かにつけて大変良くしてもらっている。王宮付きのメイドなんだから多分貴族なんだろうが、全然そういう感じを見せない親しみやすいメイドさんだ。あとおっぱいがでかい。やばい。惚れそう。


 とはいうものの、俺は離宮からは出してもらえないし、部屋には窓もない、そして部屋の外には必ず騎士が二人立っている。護衛だ、という体にはなっているが、まぁ監視なんだろう。そのストレスを軽減するために彼女は頑張ってくれている、ということなんだと思う。

 そう、彼女は頑張ってこちらに親しもうと努力している。勇者でもない、どこの馬の骨かもわからない異世界の男相手なんだ、怯えがないはずがない。

 それがわかるから、そんなにわがままも言えないよね。


「おはようございます、マモルさん。今日はよく眠れましたか?」


「おはようございます、アンナさん。痛みも引いて、やっと寝られるようになったって感じですかね、夢見は悪いんですけど」


「あら? そうなんですか? やっぱり腕の?」


 左腕に手をやりながら何となく右上の方を見ながら答える。


「ええ……、起きて腕がくっついてるの見て、やっと安心するって感じです」


「そうなんですか……。でも痛みが引いたのはいいことですよね! きっとすぐ良くなりますよ!」


 にっこり、って音が鳴りそうなほど笑顔でそんなことをいうアンナさん可愛い。


「お食事にしましょうね」


 そう言いながら、アンナさんが食事の準備をしてくれる。左手が使えないから、ナイフを使わなくていいように具材はあらかじめ切ってくれてある。昨日苦労したからなぁ……。アンナさんホント気遣いの人だ。好き。

 こっちの料理は、幸い極めて普通においしかった。しっかり手作りの味がする。これは王宮だからかもしれないけど。変わった食材とかもあるのかなぁ。


「このスクランブルエッグ、味が濃くてパンにすごく合いますね」


「ああ、それは王宮で育てているグリフォンの卵です。すっごく大きいんですよ!」


 お、おう。もうすでに変わった食材食べてたわ。


「そうそう、お食事が終わったら、クリスティーナ様がいらっしゃる前に体を拭きましょうね。4日も水浴びもできなくて、不自由でしたでしょう?」


 おお、そりゃありがたい。もうなんかのたうち回ってたしめちゃめちゃ汗臭いって思ってたんだよな。


「それは嬉しいです。急いで食べますね!」


 またにっこり笑ってアンナさんが答える。


「焦らなくても大丈夫ですよ、お食事されている間に準備しておきますね」


 準備……? と思っていると、アンナさんはベッドサイドにでっかいたらいを引っ張ってきた。けど、これ空なんだけど?


「水よ……我が意に従い顕現せよ」


 言葉と同時、アンナさんの両手からバチャバチャ水が出てくる! おお魔法か!


「すげぇ……!」


 魔法見るたびに語彙力がなくなってしまう。

 あっという間にたらいに水がたまる。アンナさんは次に右手を水につけ、言った。


「火の力よ、水と交わり温もりをもたらせ」


 あー、あっためてんのか! 便利だなぁ魔法。


「お食事、終わりましたね、マモルさん。では、服を脱いでこちらへ」


「ああ、はい。ごちそうさまでした。って、えっ?」


 え、ちょっと何言ってるのこの子。


「服を着たままだとお拭きできないので」


「おあ、え、いやまぁそりゃそうでしょうけど! いや自分で拭きますよ大丈夫ですよ万全ですよ!」


「片手ではきちんと全身拭けませんよ? 慣れてますから大丈夫です」


 俺が大丈夫じゃねえんだよ!


「さぁ、ご遠慮なくどうぞ、せっかく温めたお湯がぬるくなってしまいます」


 笑顔の圧がすごい。マジなの?


 …………。

 ぼくもうおむこにいけない。

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