第2話 王女と癒し
第2話 王女と癒し
「マモル、と言ったか?」
おお、さすが王様、威厳があるな。
「はい、王さm……陛下。自分は衛。花房衛であります!」
口調わかんねえしうちの道場用語でいこう! 名前はもちろん覚えてない! 5フレーズぐらいはあったしな! 一発で覚えられるわけない!
周りで見てる騎士たちがピリつくのがわかるがギリギリセーフだろ多分、おそらく、きっと。直接返事したらダメとかないよね?
うちの家はよくわからん流派のよくわからん護身術の後継者一族だ。殴ったり蹴ったり投げたり極めたりする。流派名は頭が悪すぎるので言いたくない。極意は『目打ち金的引き倒して踏みつけ』だ。護身とは一体。試合で使えない頭おかしい極意です。
「ふむ……。先ほどの試合、ダメージが通らないと申しておったがそれを踏まえたうえでもその方が優勢であったと見るが」
「はい、陛下、ありがたくあります。ですが、自分が優位に見えたのは自分が護身術をかじっており、勇者殿はその類の経験を全く持っていなかったからだと愚考します」
「よい、続けよ」
「はい、陛下。勇者殿は自分の行動に対し事前に反応することも躱すこともしませんでした。ダメージが通っていないにもかかわらず、こちらの攻撃に対して二度とも動きを止めておりってぐおっ!」
クリスティーナがグイっと左手を引っ張ってくる。痛いんだが! 折れた指も含めて力いっぱい引っ張ってるんですが! 痛い! ヒビだけだったのに折れちゃう!
「お父様、難しいお話は後になさって。それより、わたくしもう我慢できませんの、うふふふ、癒しを……癒しを差し上げなくては! 一刻も早く!」
えっ何この子怖い。なんか目つきイっちゃってるし握力めっちゃ強いんだけど。このままだとマジで折れるんですけど? いたたたたたた!
「う、むぅ……止むを得まい。」
「うふふ、さぁ癒しますわ! うふふ、アハ、フフフフフフ!」
こわ。もうやだこの子ただただ怖い。が、突然笑うのをやめると、真剣な表情を見せる。真剣な表情だとこの子めっちゃかわいいな。目はイっちゃったままなのが怖すぎるが。
10秒ほどこちらを見つめていたクリスティーナ王女は、すっと目を閉じ、それと同時に両手を胸の前で掲げた。集中してんのかな。
「すまぬな、クリスは少し変わったところがある娘でな。傷を負ったものを見ると只ではおかぬ性格なのだ」
「放っておけない、ではなくでありますか?」
「うむ、あらゆる万難を排して癒しにかかるのだ。無理に妨げようとすると大変な被害が出る」
「…………」
やべぇ……。そういえば周りの連中もなんか生温かい目線でこっち見てるような気がするわ。と、王様の向こう、窓に勇者クンが映っている。俯いて木剣握りしめてるな。
もうちょっとちゃんと勇者クンを確認しようとしたとき、クリスティーナの両手が光りはじめた。輝くほどの強さはない柔らかな光。
「すげぇ……」
これが魔法か!
クリスティーナが目を開け、両手で俺の手のひらと包み込むように近づけていくと、小指の痛みがうっすらと和らいだような気がした。
クリスティーナがにっこり笑って言う。
「5分ほどで治癒しきれると思いますわ」
「ありがたくあります、クリスティーナ王女」
「あら、わたくしには先ほどのように話しかけていただいてよくってよ?」
ここだけ切り取って見せられてたら確実に惚れてたな。むしろそうして欲しかった……。
美しいプラチナブロンドも、少したれ目がちな目も、その中で輝く宝石のような緑の瞳も、すらりと伸びるほっそりした手足も、両手の柔らかな光に照らされて、輝かんばかりだった。目がイっちゃってないだけでこんな違うのか。
「恐縮です、クリスティーナ王女」
うふふっと笑う彼女は、控えめに言っても最高に魅力的だった。
俺はロリコンじゃないので13歳には欲情しませんが。
「さて、話を続けよう、マモル」
「はい、陛下。勇者殿は、戦いの経験がなく、しかしながら日常的に攻撃される機会があったと考えられます」
「ほう?」
「おそらく、いじめにあっていたものと────」
その瞬間、視界の端で何かが動いた。
クリスティーナを右に向かって突き飛ばし、その勢いのまま振り返ろうと──!
「貴様っ! 何を!」
剣に手をやる騎士たちはいったいどちらに警告しているのか。
そして、こちらに迫る勇者クンを目撃した瞬間、俺の左腕が爆発した。
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