封鎖された都市と水
春嵐
夢のない世界
夢を見ることがなかった。
起きていても、眠りの中でも。
どこまでもひたすら、かなしいぐらいに、現実が続く。
軽めのラップトップを抱えて、戦地を走る。女の私にとっての武器は、この機材だった。私の分身。男よりも、銃よりも、もっとたくさん、ころせる。それこそ、桁が違うぐらいに。筋力も覚悟も必要ない。
それでも、これを使って、救う道を選んでしまった。
ころすのは簡単だけど、助けるのは、とても難しい。そして、大義や目標があって助けるわけでもなかった。
何も意味がなく、ただなんとなくで、人を助ける。なんとなくでころす人間と、変わりはなかった。ころせば終わりだから、感謝されるのはころす側のほうなのかもしれない。
爆風。
地面の揺れ。
空気の振動。
当たらないようになっている。事前に位置情報と紐付けて回避操作を仕込んでいるから、上から落ちてくる爆弾のほうが自分を避けていく。
地下坑道。
あった。
滑り込む。
あとは、ラップトップを繋ぐことができる場所を探すだけ。配管の管理システムに侵入できれば、私の勝ち。
封鎖された都市に再び水が供給される。
どこぞの知らない国と知らない組織の戦いに巻き込まれて、都市ひとつが丸ごと断水していた。水が絶たれてから丸一日。そろそろ、限界のはず。
とにかく。水を。
自分は大丈夫だった。いつどこにいても、水を含め必要なものは供給される。そういう契約をプロバイダと結んでいる。かわりに、私が勝ち取った勝利は全てプロバイダの功績になっていく。
配管の、繋ぎ目。
システムの繋ぎ目。
あった。
ラップトップの外部通信を繋ぐ場所。存在しないが、こじ開ければ無線接続できる。
「おい」
声をかけられた。
「もう、ごはん?」
声をかけ返した。
「そうだ」
知らない国の軍隊。
知らない組織の運び屋。
「両軍から掩護されるのは、ありがたいわ」
足に衝撃。
「すまない」
続いて、腹。
「おれたちのどちらも、あの都市の封鎖が解除されるのを望んでないんだ」
立てなくなって、倒れた。
「あの都市がなくなってしまえば、おれたちは戦いを続けられる。だからすまない。しんでくれ」
銃撃音。
「ばかね」
そこまでで、視界が、絶たれた。
「やっぱりあそこの都市が生命線なんだわ」
私の分身が、しんだ。
通信。プロバイダから。
『機体の通信が途絶えました。大丈夫ですか?』
「大丈夫。水の配線コントロールは奪ったから。もう、どばどば供給できるわ」
『ありがとうございます』
「次の分身をちょうだい。早めにね」
『3日あれば』
「二日でお願い。水が出たのを確認したら、どうせまた空爆が始まるから」
『防弾防塵ではなくなりますが、いいですか?』
「いいわよ。どうせ機械だし。すぐ壊れるし。今回は速度重視でお願い」
『わかりました。2日でご用意いたします』
救う。
ただ、ひたすらに。
家の椅子に座りながら。
封鎖された都市と水 春嵐 @aiot3110
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