第10話目 車窓






まだ闇のままでいたい冬の朝



空が白みかける 夜明け



車で団地の坂道を下る



昼間見慣れた両脇の家々




見慣れた景色だが



まだ薄暗い夜明けの そのさまは



また おもむきが違う




くねくね曲がりながら屋並みをすり抜けた時



眼前に瀬戸内の景色が広がる




綺麗!!



寝ぼけまなこが目を覚ました



一秒か二秒過ぎた時



慌てた脳はシャッターを切った



そして網膜に映った像を



脳内キャンバスに一気に描く




影のような物体の区別はハッキリつくが



境界線は おぼろに滲んで



余計なものが見えないのがいい




わずかに白く見えるガードレールの上に



紅葉した落葉樹が盛り上がっている




その遠く先に




まだ眠っているかのように穏やかな



瀬戸内の海が見える



海を挟んで重なり合う島々





朝焼けの薄雲が浮かぶ日の出前の空





これで絵は描けた





あの一瞬に目覚めさせた瀬戸内の風景



その感動は 心の片隅に飾られて



これから先 いつまでも残るだろう





今 車窓の風景は海沿いの道を走っている






    

                 了



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