ログ:雷音の機械兵(4)
完全なる人型として活動する機械。
アトルギア同様に独自の思考と発想を持ちながら、高い戦闘力を所有。
だが身体は人間同様に発育を行う不可思議な生命体。
個体数は地上に極僅か。その全てが
いつ誰の手によって作られたのか。
それぞれ何処で何をしているのか。
誰も知らない。
彼女らはただ機械兵を破壊する行為だけを求めている。
まるで他の機械兵の天敵として神が設けた存在かのように。
神の意思に選ばれし究極の生命体。
悪魔と呼ばれた力の保持者。
それが、チゴ型アトルギア。
幼き日、町を滅ぼした機械兵の群れをエリサはたった一人で殲滅した。悪魔の少女。忌むべき呼び名はその力を、その正体を恐れた人間によって捺された拒絶の烙印。
――さて。エリサは問う。君は私をどう遇す。
「味方なのか、お前は。俺達にとって」
「自分で判断して。私は私の心に従って動いている」
「心……」
「機械が心を持つのはおかしい?」
それでも私は生きてきた。
だから人よ、選べ。私は神の使いか冒涜か。
「心を持たない言葉に心を動かされることはない」
泣いていた。それが鉄平の答えだった。
「優しい言葉を使うのね」
「お前を人間扱いしているからだ」
「…………そう」
立たせようと介助する手を拒んだ。瓦礫の上に腰を下ろす。
「……少し休んでから行く、今の状態じゃ戦えない。鉄平、先にポートツリーを登って」
「なんだと。エリサ、お前は」
「すぐに行くから」
鉄平の目を見た。
「紗也をお願い」
迷いのない真っすぐな瞳を見てエリサは言う。彼は何も言わず一礼をくれた。
今にも倒壊しそうなガナノ=ボトム第三区画のポートツリー。あの奇行機械兵がマザーと呼び、向かった先はあそこで間違いない。情報集約の塔は人間にとっては勿論、機械兵にとっても重要なアクセスポイントだから。エリサ自身が本能的に識っている。
機械の塔へと入っていった少年の背中を見送って、エリサは鞘を杖に立ち上がる。
――これまで何度自問しただろう。
誰に作られたかも分からない。何のために戦うのかも分からない。命も無いのに殺し合うのは何故か。この命は何のために使われるのか。
「そんなの、私が決める」
崩れた建物の陰から一体、また一体……どこから湧いてくるのやら。
青い飾りは機械兵・エリサの
エリサは学んだ。生物には潜在的な力があると。それを最も効率的に引き出すアルゴリズムこそ怒りの感情。憎悪の心だと。
人間はエリサに愛を教えた。だから愛を奪った機械兵は、エリサに憎悪を植え付けた。
そして少女を力に目覚めさせた。
人智を超える力でエリサは守るべき者のため同族と戦ってきた。高度知的無機生命体の感情を得た姿チゴ型として。
そのアルゴリズムが感情と呼べるのか誰も答えられぬ皮肉を背負いながら。
(百体、超えちゃうかな)
電影の光が辺りを照らす。睨んだ視線の先にはぞろぞろと首を揃えた奴らがいる。全員、自分狙いらしい。
憎悪という激しい感情で突き動かされるエリサの身体はすでに機能低下の兆候が出ている。
直感的に感じている。百体斬れば、自分も死ぬ。
――だとしてもだ。
「友達……幸運を」
ポートツリーに向けてエリサは親指を立てた。
「行くぞっ」
エリサを取り囲んだ機械兵達が一斉に飛びかかる。剣を抜いたエリサは彼らに向かって感情を撒き散らした。
「―――――――――!」
雷が鳴る。
◇◇◇
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