ログ:御倶離毘(5)
屋敷に辿り着いた。合流を果たしたゲイツに怪我はなく村人達への人的被害も最小限に抑えたまま全員無事に紗也の屋敷へ収容させた。村の有力者が後は取り仕切ってくれている。
ゲイツは、エリサの顔色が優れない事を心配してくれたが、列の左側でも二体を倒したそうだ。どちらもゲイツがやったのは想像できるゆえ自分より彼の方を労わるべきだ。
討伐数、計四体。鉄平が相手している機械兵で五体。
まもなく鉄平達が館に戻った。全員無事とは言い難く帰ってきた十人のうち四人が重傷を負っている。むしろ兵士でもない戦いの素人達が奴らを倒せただけでも奇跡に近い。
怪我人の一人に吾作も含まれていた。彼は自らの脚で帰還したものの右肘から先を失っていた。ソヨカを始め負傷者達の身寄りが泣き喚いている。機械の恐怖に脅えた者達の嘆きの言葉が館の中に渦巻いている。
鉄平は先の一戦でだいぶ疲弊したらしい。肩で息をしながら廊下の片隅でうなだれていた。
「鉄平さん、よくぞあれだけの人を生きて帰した。称賛するよ」
「……五人死なせた。見張りは八つ裂きにされていた。十五人が死んだ」
「まだ二百人が生きている。あなたが立たずに誰が立つ」
「この村の周囲一里内(※=4km四方)にはセンサーを仕掛けてたが全て破壊されている」
「倒したシシュンの中に擬態可能な《ステルス型》個体がいた。奴らの仕業に違いない」
ゲイツの言葉を聞きこちらをちらりと見た鉄平の顔は血で染まっていた。
「血だらけじゃないか、怪我はどこを」
「いや、これ全部味方のだ。俺は無傷だ」
鉄平は力尽きた者達を一人でここまで運び込んだ。抱えてきた者達の血液でその容貌はすでに亡者の相を呈している。
「俺は無力だ。大事なものを何一つ守れやしねえ、一族の恥さらしだ」
「そんなことはない。あなたは勇敢に戦った。村人達はまだあなたを頼りにしている、希望を捨てるな」
「すべて完璧だった、俺の計画に狂いは無かったんだ、三日前まで……三日前まで!」
突然、鉄平がゲイツの胸元に掴みかかった。
「お前達だ、お前達のせいで俺の計画に狂いが出たんだ。お前達がこの村に来たから機械兵達は嗅ぎ付けて来たんだ。お前達さえいなければ俺達は平和だった、お前達さえいなければ俺達が怯えることはなかった、お前達さえいなければ俺達は……死なずに済んだッ」
ゲイツの頬に拳を振り抜いた。さらに拳を振り続ける。
「お前達のせいだ、お前達のせいだ、お前達のせいだ、お前達のせいだッ! 返せ! 全部返せよ! 俺達の平和を! 返せッ!」
不条理な殴打がゲイツの顔面を捉え続ける。鉄平は喚きながらゲイツに馬乗りに殴り続けた。ゲイツは一切抵抗しなかった。
「……気は済んだか」
「黙れ!」
振りかぶった一撃を正面から浴びせた。ゲイツの鼻から鮮血が噴き出す。
「鉄平さん、これが世界だ」
穏やかな声でゲイツは言った。ゲイツの顔には怒りも浮かんでいない。
「あなたが俺達を憎もうがそっちの勝手だ。それで今この現実が変わると言うのなら、俺達を殺したって構わない。ただ、そんな絵空事で世界は変わらない。戦うのは人間同士じゃない、現実だろう」
「う、うああぁああああーーーーー!」
頭を抱えて鉄平は叫び出した。
「鉄平さん、親がいないあなたは人に甘えることを知らず、両親が遺した一族の導師という役目のもとに生きてきた。たった十五年間で皆を認めさせるだけの努力をした」
「お前に俺の何が分かる」
「君なら俺を理解できる」
ゲイツは左腕の袖を
鉄平の前に晒されたゲイツの腕は人間の物ではなかった。
「実は俺、
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