ログ:朋然ノ巫女(6)

 あくまで最悪の想定だが十中八九は的を射ている。頭を抱えたくなる事実に急を要する現実が頭の回転を早める。鉄平の方が先に口を継ぐ。

「第三ガナノが落ちた事はまだ村の人間には伝えていない。ひと月前の機械兵の死骸ですら村はパニック状態だった。今度はもう後がない。村全体の支度がようやく整う明後日の早暁、俺達はアオキ村を去る」

「雨でぬかるんだ山道は危険だったはず、それを押し通るつもりですか」

「愚問をするな」

 鉄平はにわかに目を血走らせた。

「機械共に村ごとなぶり殺しにされるか、山の土砂に飲まれて死ぬか、どちらがより人道的か考えろ。村の命運は俺と紗也が背負っている。よそ者に口出しは無用だ」

 ゲイツは何も言い返さない。「失礼を」と言って両の手を挙げて恭順した。

「仰る通りだ、新天地を望めるなら可能性にかけたい。鉄平さん、あなたの指導者としての覚悟は卑賤の乞食者ながらしかと受け止めた。ご無礼をお許しください」

「いまさら礼儀は求めていない。お前達はこれからどうするつもりだ」

「実地に赴いて現場検証と行きたいところだけど、あの大要塞を落とす勢力がうろついてるんだ。給料未払いの一兵卒は命を惜しむね」

「そこでお前達にこれを返す」

「あ……」

 再び書架に手をかけて動かすとそこにはエリサ達の預けていた武器が収められていた。机の上に二振りの剣が並べられた。エリサとゲイツは手に取ってそれぞれ刃の機嫌を確かめる。鞘から覗く愛剣に手出しをされた形跡はない。これぞ傭兵の武器だ。

「お前達は金で自分の命を売っているのか」

「まあお仕事ですから」

「だったら今度は俺がお前達を買おう」

「ほぉ。鉄平さんが、あんなに毛嫌いしていた俺達を買うのかい」

 ゲイツが嫌な笑みを浮かべた。

「第三ガナノが落ちた今、この山も敵の行動域テリトリーだ。二人の腕が確かなのもこの身をもって分かった。どうか、アオキ村の山越えを護衛して欲しい」

「よそ者を信じるのかい」

「村人はお前達を信じている。この通り、頼む」

 鉄平が、頭を下げた。居丈高な物言いとは裏腹に鉄平の頼み姿は美しくまっすぐだ。

「斬りたければそいつで俺を斬れ。いずれにせよ死ぬ覚悟はある……さぁいくらで売る」

「太い男だ」

 ぎろりと凄む鉄平のまなざしがゲイツを刺している。

 愚直だ。エリサはただそう思った。自分が当事者にもかかわらずエリサの頭は冷めていた。アオキ村の人々を己が身一つで守る事しか頭にない。これでは統治はできても旅の道中で苦労する。ゲイツの溜め息に紛れてエリサも息をつく。

「あなたの言った通り、俺達は命を売って日銭を得る仕事だ。いただくものはたんまりといただきますよ?」

白色穀物マイラスを腹いっぱい」

「そうそう、白色穀物を腹いっぱい……え?」

「あなた達の村で穫れた作物、それと水さえくれたら引き受ける」

 エリサはさらりと言う。

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