ログ:朋然ノ巫女(4)
木剣は切っ先を休めることなく返す刃で逆袈裟に打ち上げた。
今度の狙いはエリサだ。
素早く身を引き間合いを改め、木剣の持ち主を確かめる。
ゲイツが言う。
「やあおかえりなさい。家主の手荒い歓迎だ」
鉄平は木剣を構え、じりじりと詰め寄ってくる。
「お前達のような余所者を村にのさらばせる訳にはいかない。今ここで消えてもらう」
「そうはいかない、あなたに話があるんだ」
「やぁっ」
「駄目かな?」
木剣は鋭く風を切り裂く。ゲイツが屈んでやりすごすと鉄平の回し蹴りが脇腹に入った。
「お、うっ」
しかし左腕で直撃を防いでいた。数歩よろめいたゲイツに木剣を突き出すがそこにエリサが割って入り、剣身に掌底を当て軌道を逸らした。その引き手の掌底で鳩尾を狙って打つ。鉄平は激しく呻いた。だが膝をつかない。
「二対一だぞ、やめた方がいい」
「丸腰が二人だ」
木剣を振りかざして打ち込んできた鉄平。
(やはり鉄平は私達の存在を嫌っていたか)
矛先はエリサに向けられた。横薙ぎに振り払われた木剣に身をよじって回避を取るが、いつの間にか掌底が眼前にあり、鎖骨に喰らった。かろうじて多少の勢いを流したが、胸部に鈍い衝撃がほとばしる。と思えば腹部に鉄平の前蹴りが突き刺さった。
「ぐぁっ」
たまらず後方へ受け身を取る。続く追い打ちを鼻先でかわす。鉄平の背中にゲイツが飛びかかった。
「女の子への暴力はんたーーい!」
首元に腕を回し着地の勢いを乗せて鉄平を地面に叩き付けた。しかしなんと鉄平はすぐ身を起こすとすかさずゲイツを頭突いた。怯んだゲイツの胸ぐらをつかんで再度頭突くとゆがんだ横面に一撃の拳を浴びせた。ゲイツは転がりながら身を起こして、
「エリサ、アライブ」
「わかってる」
殺さない。ゲイツも自分に確かめるつもりで言ったのだろう。あとはゲイツに任せた方が賢明だ。
「鉄平さん、俺達はあなたと争いたくない」
「ほざけ」
「だから話を聞きなさいって」
吐き捨てて一歩大きく踏み込んできた。上段だ。ゲイツが前に出た。明確な殺意を孕んだまま下される打撃を直前まで待ち構え、懐へと飛び込む。
ただ一足にて。
腰を落としたままの姿勢で木剣を持つ腕をつかみ前方へといなした。鉄平の大きな身体が投げ飛ばされる。どう、と音を立てて地に鉄平が伏した。
「はい、おしまい!」
ゲイツは手に持つ木剣の柄を鉄平に差し出しながら言った。
「俺達を助けてくれ、鉄平さん」
「誰がよそ者に!」
なおも反抗の姿勢を見せる鉄平の動きを制してゲイツはしゃがんで目線を合わせる。
「機械に詳しいと聞いたんだ」
すると鉄平はぴくりと反応を示した。
「……だから?」
「俺達のプツロングラに通信障害が起こってる、修理をお願いできませんか」
「…………来い」
鉄平は木剣を手に取り立った。じろりとゲイツとエリサを睨めつけて小屋の中に誘い、二人が入ったのを確認してから戸を閉めた。一人横になれるだけの窮屈な空間。息苦しい部屋だと思いきや驚いたことに鉄平はおもむろに床板を外し始めた。取り払われたそこには地下に続く階段が下へと伸びているではないか。
(……隠し部屋?)
鉄平はもう一度、此方を睨んだ。そして何も言わずに階段を下りていく。自分達も言葉を交わさずに続いて降りた。
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