第2話

「大崎町に連日現れるこのキラキラは一体どんな現象なのでしょう?気象予報士のM田さん?───はい、これは───珍しい現象なんです───光の屈折や反射が雲の水分に作用した結果で───連日現れる確率は───」


「怪奇!大崎町上空に連日現れる雲は宇宙からの暗示?!彩雲はUFOか!?連日現れる謎の飛行物体!!!」


「期間限定!大崎町観光ツアー!今なら追加コースで町役場の屋上から観察し放題!彩雲饅頭はほっぺが落ちる美味しさ!マニア必見!気象学者の解説付き!これを機に大崎町に滞在してみませんか?リノベーションした空家を各種売り出し中!短期滞在から長期滞在までプランは様々!是非大崎町へ!」

 


 テレビ画面にはセンセーショナルな見出しテロップが踊り出てジャジャーンだのシャキーンだのと効果音が鳴る。リモコンでチャンネルを変えてもどこも同じようなニュースだ。

 映像や図を元に科学的な解説を流す教育番組ならまだしも、こうも連日同じニュースが続くと番組制作側もネタが尽きるんだろう。

 今やオカルト全開のトンデモ科学番組が番組表に軒を連ねている。最近は旅行会社のCMが増えた気がする。


 わからなくもない。実は、最初にあの不思議な雲を目にした日から毎日、彩雲らしきあの不思議な現象が起こり続けているのだ。

 それもどうしてか私が住むこの大崎町の上空にだけだ。


 今日で何日目だろう、三日目には不安も感じたものだが一週間も続くと慣れてしまってそのあとは数えるのをやめてしまった。テレビや動画配信サイトには破滅へのカウントダウンなんて文字が並んでエンタメの劣化を感じる。


 大崎町は期間限定の観光資源として彩雲(仮)を利用することに決めたらしく、彩雲(仮)にちなんだ彩雲饅頭やレインボーせんべいや彩雲アクリルキーホルダーなどさまざまな商品を発売した。

 町役場前にはご当地彩雲グッズを売り出す専門店までもが出店している。観光地のお値段で少し割高だがお饅頭はしっとり甘く美味しいのでおやつにしている。私のカバンには彩雲アクリルキーホルダーがきらりと光った。


 穏やかな一人暮らしライフも今は昔。

 今朝も大崎町上空には明滅する彩雲が夜明けの空を台無しにしている。


 とても腹立たしい。UFOだかハルマゲドンだか知らないが、あれのせいで大崎町の景観は著しく損なわれている。

 その上、毎日組まれているらしい観光ツアー!

 レインボー鉢巻やレインボーはっぴでレインボーな出で立ちの老若男女と大きなカメラを担いだカメラマンとワゴンで乗り付けるカメラクルーが早朝からわいわいとうるさい。


 夜と朝の間の静かで落ち着くあの時間に菜園の手入れをするのが好きだった。一日の緞帳がゆっくり開いていくようなあの時間が心地よかった。

 それが今やこの騒ぎである。



 喧騒から離れたくて引っ越した大崎町だったが、これは移住を考えなくてはならないかもしれない。物件サイトをちらりと眺めながら次こそ静かな場所へ引っ越そうと気持ちを新たにした。





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