177話 魔族

四体の竜種が口を開く。

そして、巨大な魔弾が放たれた。


ゆっくりと迫るそれに身体が反応する事ができず、


ドゴオオオオオオオンッ!!


炸裂した魔法によって吹き飛ばされる。


「…シス」


——ふざけないで!あんたのせいで!何回も!何十回も!何百回も!


彼女を連れてここから逃げなければ…。


だが、地面に叩きつけられた身体は動かない。

巨大な魔弾は次々と降り注ぎ私を蹂躙していく。


「ぐッ!」


…死ねば回復するはずだ。


その時を待つように目を閉じると、ドスンという音と共に巨大な質量が身体の上に乗る。


「がはッ!?」


見れば仰向けに転がる私を竜種がその大木のような足で踏みつけていた。

そして、獲物を弄ぶかのように鋭い牙を見せる。

骨が折れ、口の中が血で溢れる。


「…悪趣味なヤローだな」


その鋭い牙に視線が吸い込まれる。

ゆっくりと降ってくる巨大な顎。


…ここまでか。


目を閉じた。

その時だった。


ガァン!


轟音を響かせ、何かが竜種の頭に叩きつけられる。


ドオォン!ドオォン!


…なんだ?


目を開ければ、巨大な竜種に大剣を叩きつけるリザードマンの姿と無数の魔法弾。

私を踏みつけていた竜種は後退するように距離を取るが、無数の魔法弾の雨がそれを逃すまいと押し寄せる。


ドォン!!ドォン!!


「よう」


大剣を肩に担ぎ、リザードマンが親しげに笑う。


…誰だ?


残念ながら見分けがつかないのだが 、次に見せた顔で理解する事になる。


「あはは、やっぱりこの子が死にそうになるなんて、こんな地獄みたいな場所ね」


半身に紋様を浮かべた女が見下ろしながら笑いかけてくる。

それは初めて出会った冒険者達だった。


「…な…ぜ…」


身体中の骨を砕かれた痛みで、途切れ途切れの言葉が溢れる。


「こいつを飲め」


リザードマンは赤と青の二本の小瓶を開けると私の口に流し込む。


「都市に買い出しに来てたら、依頼を見たのよ。とっても面白い依頼」


女なクスクスと笑いながら戦場を見渡す。

ポーションで回復した私も起き上がると同じように周囲を見渡した。


「「うおぉぉぉ!!」」


そこには数百…いや千の桁に達するだろう魔族の姿が目に入る。


「竜殺しが単独で竜種の楽園に挑む。報酬は銅貨一枚」

「あはは、面白いよね。見物も銅貨一枚だって」

「これが見物ですか?」


冒険者達は圧倒的な物量で竜種の群れに攻撃を仕掛けている。

だが、硬い鱗に弾かれ中々致命傷を与えきれずにいるようだ。


そんな私の問いにリザードマンが豪快に笑う。


「一人でこれだけの竜種を狩るやつが死にそうになっている…俺達は戦士だ」

「そういう事にしておくわ」


そう言うと二人は竜種の群れに向かって駆け出した。


「…戦士か」


私は回復した身体と魔力を確認するように、胸に手を当てる。

肉体はそれなりに治っているようだったが…。


「…魔力は僅かか」


両目に魔力を込め、僅かに濃さを取り戻した周辺の魔素を集める。


「器用ね」

「…レベッカも見学に来たんです?」

「そうね、楽園に挑む馬鹿の顔を見に来たのよ」


彼女は銅貨を親指で宙に弾くと呆れた声で呟いた。


「冒険者ってこんなにいたのね」


周囲を人の群れが埋め尽くし、縦横無尽に駆け回り戦う様を見渡しながら呆然と呟いた。


「全ての都市に依頼したからな」


そんな中、煙草を咥えたリアが近くに寄ってくる。


「…受付嬢ですよね?」

「今日だけは冒険者だ。昔のようにな…」


紫煙を吐き出して彼女は笑みを漏らす。


「普段は好き勝手に生きてるやつらなんだがな…」


竜種に襲いかかる冒険者達を目で追いながらどこか懐かしそうに目を細めた。


「まるでお祭りね」


レベッカは楽しそうに笑うと剣を抜いて竜種へと走る。


「そうだな…私達はまだやれる」


リアは煙草を地面に落として、それを踏みつけた。

そして、両手に魔力を込めると駆け出す。


「…お祭りですか」


私は右手に意志の剣を宿す。

そこからは一方的な戦いが始まった。


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