163話 赤髪の冒険者

華やかな街並を眺めながら、肉厚のステーキに舌鼓を打つ。

脂がのった柔らかい肉と噛む度にじゅわりと溶けるように溢れ出る肉汁。


カード残高を確認された後に案内されたのは最上階の一室だった。

入口が開かれれば目を引くのは、黄金に光り輝くシャンデリア。


部屋の中央を彩るのは純白のテーブルクロス。

その上には小さなグラスと厳選されたワインが置かれていた。


そして、呼び鈴を鳴らせばこうやって料理が運ばれてくる。


「確かにちょっと上品すぎる値段ですね」

「なによ?冒険者は宵越しの金は持たないとかカッコつけてたじゃない」


シスは上機嫌にワインで喉を潤す。


「まあ、良いですけどね」


稼げば良いのだ。

ここで50万リン程使おうとも、取り分がまともになったのだがら、すぐに使いきれなくなるはずだ。


チリリン


それを確認した私は次のワインをオーダーする為に呼び鈴を鳴らした。

そして、すぐに開かれる扉。


少々露出の高い給仕服を見に纏った女性が姿を現す。

専属のウェイトレスとして待機しているのだろう。


ただ気になるのは、その後ろに立つ赤髪の女性だ。

店員に相応しくない格好をしており、腰には長剣をぶら下げている。


長く伸びた赤髪が特徴的な女性は、愛想笑いの一つもせず、仏頂面でこちらを眺めていた。


「ご注文でしょうか?」

「ええ、このワインと三種の盛り合わせに…」

「あたし、お肉おかわり!」

「…だそうです」

「畏まりました」


彼女は大きな胸を揺らしながら、丁寧に頭を下げると去ろうとする。


「あのあちらの女性は?」

「…ええと」


胸を揺らしながら振り返り、首を傾げて迷っている。

そんな中、仏頂面の女がようやく口を開いた。


「用心棒として雇われているわ」

「レベッカさん困ります…そんなハッキリ言われては…」

「無いと思うけど、食い逃げなんて真似はやめて欲しい…仕事をしないといけないからね」

「レベッカさん!」


ウェイトレスは女を嗜めるが、それでも態度は変わらない。

冷たい瞳で私を見つめ続けるだけだ。


「金はありますし、そんな事しませんよ」

「そう祈るわ。あたしはまだ死にたくないからね」


それだけを言うと、女は視線を外し息を吐いた。


「す、すみません!レベッカさんは冒険者でして、その…ちょっとぶっきらぼうな所がありますけど…」

「冒険者なのですか?」


慌てて弁明をするウェイトレスを余所に、赤髪の女性をじっと眺める。

彼女は小さく頷いた。


「へぇ、黄金郷とかお宝の事聞きたいなぁ」

「……」


頬を赤らめながらほろ酔いするシスを見て、レベッカは何とも言えない表情を浮かべる。


「…レベッカさん、ご指名ですよ。あ、指名料はこちらです」


そう言って、メニューの最後のページに指を差す。


凄腕の冒険者が、お客様に最高の冒険譚を語ります。

20万リン


シスが胡散臭くさそうに読み上げていたメニューだ。


「…凄腕?」

「ええ!レベッカさんはランク462の冒険者なんですよ!…あ、この前の人はハズレでしたけど」


大きな胸を更に膨らませて、得意げになるウェイトレス。


「あたしなんて大した事ないよ」


ただ当の本人はあまり気乗りはしないらしい。


「北の旧都でしたか?そこに行った事は?」

「いつもそこで狩りをしてるんだけどね。今は装備を整える為の小銭稼ぎさ」


…ランク462か。

カミラが133だったから、随分高いな。


「このメニューも追加でお願いします」

「畏まりました!…レベッカさん、お仕事ですよ」

「はぁ、あんたらを楽しませる話ができるとは思えないけどね」


それでも、ウェイトレスに手を引かれるレベッカは席に着いた。


「あたしも飲んでいい?」

「構いませんよ」

「ありがとう。それより先に聞きたいんだけど、あなた純血種かしら?」


その聞き覚えのない単語に首を傾げる。


「…自覚がないタイプなのね。どおりで…」

「ねぇねぇ、純血種って何?」


最後の肉の欠片を頬張りながらシスはレベッカに尋ねる。


「そうね…昔話から始めましょうか」


レベッカは運ばれてきた赤ワインを優雅に一口啜ると、おもむろに話し始めた。


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