129話 ギルドカード

ギルドカード


金銀銅と別れたその色はアルマ王国からの信頼度を表し、魔力によって個人を識別している。

そして、ランクが存在し、大気中の魔素と魔物の討伐がランクアップに関わっていた。


もっともランクアップで得られるモノと言えば…。


——貴族の血が流れてないなら、兵士だな


昨夜、飲み明かしたシャロンとの会話を思い出す。


数多の死戦を潜り抜けた強者達が、ただの一般兵にしかなれないのだ。

資格はランク80以上、ここから中級冒険者と認められるそうだ。


アルマ王国は階級社会である。

貴族とそれ以外には明確な壁がある。


そして、ここは人族が少数派となる魔大陸。

ただの一般兵にも質が求められるのだろう。


そんな役割しか持たない魔道具だと思っていたのだが…。


「機能解放したわ。報酬の前払いよ?」


そう言って、ギルドカードを返してきた。

それを受け取り、銅色に輝くギルドカードを眺める。


解放された機能は、立体映像の表示画面と電子マネーのような残高の記載だ。


…そう、まるで電子マネーなのだ。


これが魔大陸に流通しているらしい。

つまり、人族の技術ではないか、失われた過去の技術になる事が考えられる。


シャロンに手を引かれ、初めて魔大陸を実感した光景を鮮明に思い出す。

広大な大地の先に見える山脈より高い巨大な壁。


その頂上は雲に隠れて見えず、天を貫くようにそびえ立っていた。

あの壁の先には、どんな世界が広がっているのだろう?


——その答えを知る為に冒険者はいるの


彼女の言葉が脳裏を過り、口元が緩む。


「…何が面白いのかしら?」

「いえ、なんでもありません」


咳払いをすると気持ちを切り替えて口を開く。


「まあ、いいわ。私の仕事はこれで終わりだからね」

「…終わり?」


その言葉に首を傾げる私を尻目に、彼女は席を立った。


「ええ、尋問と調査依頼。それ以上は首も突っ込みたくないの」

「…スラム街の協力者をどう探せばいいのです?」

「そうね…少し待っ」


その時だった。


コンコンッ!


突然、ノックの音が部屋に響いたのだ。


「…何かしら?」


そして、扉が開くと見覚えのある少女が立っている。

先程出会ったツインテールの少女だ。

彼女は無邪気な笑顔で、こちらを覗き込んでいた。


「ふふん、見つけたわ」


そう言って満面の笑みを浮かべる。

そんな彼女を見つめ返すと、カミラの方に視線を向ける。


「……」


カミラは無言だが僅かに眉を潜める。

明らかに機嫌が悪くなっているのがわかるのだった。

そんな中で少女は笑顔を浮かべていた。


「…あなたは釈放されたはずよ。スラム街に帰りなさい」

「あたしの魔道具返しなさいよ?それともこんな可愛い無抵抗な子をまた斬るの?」


右手を差し出す少女。

その肩は赤く染まっているが、傷痕すらなく完全に治癒している。


「はぁ、そうね…」


カミラは気怠そうに考え込む素振りを見せると、少女の瞳を見つめた。


「北区十番街…酒場の名前は知ってたりするかしら?」

「何?ドブ鼠のこと?」


少女は可愛らしく小首を傾げる。


「この子を案内しなさい。報酬は前払いで魔道具の返還よ」

「いいわよ?だから、ほら」


桃色髪の少女は、満面の笑みで応える。


「良い?約束よ?」

「ええ、約束したわ」


少女の態度にカミラは呆れたように頷くと、ポケットから取り出した銀細工の筒を投げ渡す。


「じゃあ、ついてきなさいよ?」


そう言って、部屋から立ち去る。


「その酒場に行けばいいんですね?」

「ええ、あちらが貴方を見つけるはずよ。根拠も責任もないけどね」

「…いい加減なんですね」


苦笑いをしながら答える。


「私の仕事は終わったの。それよりあの子逃げたと思うから、見失わないようにね」


カミラは気怠そうな表情で忠告すると部屋を出ていった。


どうやら厄介な案件を押し付けられたようだ。

そう思いながらも、少女の後を追う事にしたのだった。


……

………


「あの子にポーションを使ったの?優しいのね?」

「…いえ、自然に治ってました」

「…自然に?」


冒険者ギルドの一画。

カミラは牢屋の衛兵をしていた男を見つけ、何気ない疑問を呈したのたが、返ってきた言葉は予想外のものだった。


「…めんどうな事になりそうね」


そんな簡単に治る怪我ではないはずだったのだ。

だが、この大陸では想定外という程のものでもない。


ただ彼女の勘は囁いていた。

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