128話 神の遺物

冒険者ギルド 個室


「貴方に指名依頼を出すわ。依頼内容はスラム街の調査」

「なんで私なんですか?」


ソファに腰をかけながら尋ねる。

そんな私を見て、カミラは苦笑いを浮かべた。


「高ランク冒険者が、たまたまいたからよ」


そう言いながら、彼女は一枚の紙を机の上に置く。

そこには依頼内容と金額が記されていた。


出所不明の意志の剣がスラム街に流通している。

現地の協力者と、これを捜査せよ。


危険度ランクA


王国と協定を結ぶ勢力もあるが、治安は最悪。

魔族との混血が多数を占める為、高ランク冒険者推奨。

純血の魔族が潜伏している可能性あり。


要注意されたし。


「…なるほど」


様々な疑問が頭に浮かびながら、依頼内容に目を通していく。


「質問しても?」

「なにかしら?」

「あのスラム街はなんなんです?」


カミラは旧エルハームと口にしていた気がする。


「数十年前に王国が築いた最初の都市らしいわ。ただ北の魔族との戦争で廃棄したのよ」


そこで言葉を区切り、再び説明を始める。


「今はその魔族と人族の混血が住む捨てられた都市だわ。…いえ、魔物の侵入を阻む城壁と呼んだ方が適切ね」


カミラは立ち上がると窓辺に向かう。

そして、ゆっくりとこちらに振り返ると、こう告げた。


「ただ地下鉱山もあって、王国はそこを支配する勢力と取引もしているのよ。元は王国の都市なのにね」


私は頷きながら、彼女の話に耳を傾ける。


「詳細は現地の協力者に聞くと良いわ。私も詳しくは知らないからね」

「では、この報酬の50万リンとは?」


リン…知らない通貨単位なのだ。


「魔大陸で流通している通貨かしら。ギルドカードに保存できるの」

「…カードに保存?」

「ええ、この辺りから出るなら金貨はともかく銀貨と銅貨に価値はないわ。魔族の街でも使えるらしいわよ」


カミラはポケットから銀色のギルドカードを出すとテーブルの上に置いた。


魔大陸で流通している通貨?

ギルドカードに保存?

魔族の支配する大地になぜ、人族のギルドカードが流通しているのだろう?


机の上に置かれたカードを見つめながら思案する。

私の考えを読み取ったのか、カミラはゆっくりと口を開いた。


「あら、勘が良いのね?普通は気にもしないのに」

「…ギルドカードとは、なんですか?」


そう答えると彼女が楽しそうに微笑んだ。


「その答えを知る為に冒険者はいるの…って言いたいけど、神殿の話はシャロンから聞いてるのよね?」


——神殿はねぇのか?


——あれは魔大陸だけの文字通り神の遺物だわ


——あとで、こっそりな


「…願いを叶えてくれるクリスタルとしか聞いてないですよ」

「…シャロンらしい答えね」


実に漠然としていて、意味がわからなかったのだ。

そんな私の言葉に対して、カミラは苦笑いを浮かべる。


「そのギルドカードも神の遺物だと、私は考えているわ」

「公式見解ではないのですね?」

「難しい言葉を使うのね」


口元に手をあてると、珍しく微笑む。


「ギルドの答えは、旧時代の遺物よ。アルマ王国がまだ国として成り立つ前に人々が使用していた魔道具という事らしいわ」


そう言って、ギルドカードに触れると立体映像が浮かび上がった。


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『登録者名』:カミラ・シリング

『ランク』:133

『所持金』:34,085,000

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「…これは」


ステータス表示と同じような立体映像なのだ。


「機能を解放すると使えるようになるわ」

「私のも出来るんです?」

「ええ、普通はもう少し後になるのだけどね。これも報酬の一つよ」


…スラム街の調査か。

そんな事を考えつつ、別の疑問が浮かんできた。


「…シャロンは何も言ってなかったのですが」

「駆け出しの冒険者に解放する機能ではないし、説明するのが面倒か忘れたんじゃないかしら」


…なるほど。

確かに一理ある。


「…神殿は冒険者には解放されていないわ」

「…なるほど」


シャロンの知識は話半分に聞いておいた方が良いのだろうと、改めて思うのであった。


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