124話 魔大陸のスラム街

名もなき街を飛び出し、丘を駆け足で下る。

お日様は真上を通り過ぎようとしていた。


眼前には乱雑とした街並みが広がる。

私達が走る道は、大通りのようにその巨大な街を一直線に貫いていた。


「路地には入るなよ!スラム街だ!」


先頭を走るシャロンは、振り返ると大声で警告する。


「…へぇ」


横目でそれを確認する。


彼女の言う通り、立ち並ぶ建物は古く入り組んでいて統一感の欠片もない。

そんな景色がしばらく続いた。


「まさか、ここ一帯がスラム街なのです!?」


思わず問いかけると彼女は首を縦に振る。


四重城壁の都市くらいはあるのではないだろうか。

そんな広さであるにも関わらず、大通りは不気味なほど閑散としていた。


そして、身体強化で駆け抜けた私達は一軒の建物の前で止まる。


「ここは?」

「入るのは初めてだけどよ、解体場のはずだぜ」


巨大な天幕の入り口は開かれていて、そこには大量の道具が積まれていた。


「…いらっしゃい」


中から大鉈を手にした体格の良い男が姿を現す。


「狩りに出るけど、サポーターはいるか?」

「ああ、ガキで良ければな」


シャロンの問いかけに、男は無愛想な言葉を返した。


「…まあ、いいぜ。条件は?」

「補償金に銅貨50枚、超過で2割だ」

 

提示される条件に首を傾げる。

まるで暗号なのだ。


「硬貨か…それに安いんだな」

「ガキの命は軽いんでな」

「そうかい」


シャロンはそう言うと、銀貨1枚を置く。


「俺達は別々に狩るから、二組分だ」

「わかった。…おい!」


男の呼び声に小さな少女が駆け寄ってくる。

肩程に伸びた茶色い髪と青い瞳を持つ女の子だ。


「なに?仕事?」


少女は血だらけの服を着ており、裸足のまま地面に足をつけていた。


「ああ、ゴミ拾いだ。ガキどもを集めてきな」

「うん!」


彼女は素直に頷くと、駆け出していった。


「少し待ってな」

「…ああ」


シャロンはその姿を見ても、何も言わない。

これがここの日常なのだろうか。


「超過で2割ってなんです?」


だから、私も何も言わず純粋な疑問を口にする。


「拾わせた魔物の買取が最低保証金を超えたら、払う手数料さ」

「…なるほど」


銅貨50枚から先は2割があちらの取り分という事だろうか。

だが、そうなると、


「買取価格は言い値ですか?」

「…ああ」


それはぼったくられるというやつじゃないだろうか?


「…新入りか?」


すると私達の会話を聞いていた男が口を開く。


「…こいつは今日来たばかりだぜ」


彼は私を見ると、少しだけ眉を動かした。


「嫌なら他に行きな」


そして、オブラートに包む事もなく告げてくる。


「だがな、俺はずっとここで店を出してる。今日も明日もな。わかるか?」


…なるほど。


「失礼しました。宜しくお願いします」

 

私は笑顔で答える。

男は信用という意味を、ぶっきらぼうな言い草で投げて来たのだ。


「わかりゃいいんだよ」


彼はそれだけ言うと背を向けるのだった。

暫く待つと茶髪の少女に連れられた子供達が現れる。


十人の男女はそれぞれ年齢が違うようだが、全員痩せ細っていた。

そして、一列に並ぶと、シャロンの指示を待っているようだ。


「アリス、こいつらの事は忘れてこの先を駆け回りな」

「…どういう意味です?」

「走ってりゃ、魔物が寄ってくるのさ」


つまり、この先の大地は魔物の楽園という事らしい。


「俺は反対側に行く。その方が稼げるからな」

「いつまで狩ればいいのです?」

「疲れるまでさ。稼がないとカミラに怒鳴られるぜ」


確かにそれは勘弁願いたいですね。


「わかりました。それでは行きますよ」


私達はそれぞれ別れる事にした。

五人の子供達は大きな籠を背負いながら、後ろを追って来る。


「…さて、新しい武器を試しますかね」


私は銀色の筒を取り出すと、駆け出した。

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