112話 予感
夢喰いの大穴 第五階層
中層部と呼ばれる階層は、ここで終わる。
この先は、未踏破の未知の領域なのだ。
いつからここが、人類が到達して帰ってきた最後の階層になったかはわからない。
ただ先人の経験が書き込まれた地図には、いくつかの細道があり、行き止まりがあるとだけ記されてあった。
問題なのは、
「下層部に続く細道の場所が、変わるみたいですね」
まるで穴が空くように、洞窟内が変化するそうだ。
事実、地図に示されていた細道のいくつかはただの壁になっていた。
「迷宮なら、そんなものだろ?」
どうやら、魔大陸帰りの彼女の感覚では不思議な事ではないようだ。
「そういうものなんですかね?」
「昔の隊長が言ってたぜ。自然を理解しようなんて、無駄な事だってな」
何個目かの横穴を確認しながら地図に書き込むと、私達は進んでいた。
時折、遭遇する魔物は脅威ではなかった。
そして、また地図を頼りに進み、横穴を見つける度に印をつけて行った。
それを繰り返しているうちに、気付いた事があった。
…この横穴からは、魔素が漏れてますね。
魔素を感じる横穴と、そうでないものに分けられるのだ。
私はそれを地図の印に書き足す。
そして、全ての地点を回ると、その印が示す場所は三つだけだった。
その中で、もっとも強く魔素を感じた細道の前へと戻ってきた。
「…私の勘は、ここですね」
魔素が漏れるという事は、その先に繋がっているのではないだろうか?
シャロンは、その横穴を観察するように眺める。
「…なあ」
珍しく緊張した面持ちで、彼女は口を開いた。
「ここを進むなら、気をつけろよ」
まるで警告するように口にした。
「何かわかったんですか?」
「俺の勘が、ここが一番ヤバいって伝えてるぜ」
「…他の横穴は?」
私は彼女に、横穴の印をつけた地図を見せた。
「…こことここだな」
彼女の指し示した位置は、私が魔素を感じた場所と一致した。
シャロンは魔素が見えないはずだが、感じる事ができるのだろうか?
「どうして、そう思うんですか?」
「嫌な感じがしたんだよ」
そう言って、彼女は顔をしかめた。
私は横穴の中を覗き込むと、奥から流れてくる風が頬を撫でた。
「風が吹くという事は、繋がっているのでは?」
私は彼女に問いかけた。
すると彼女は、眉間にシワを寄せて首を横に振る。
「そうかもな。でも違うかもしれない」
「…自然を理解しようなんて、無駄な事ですか」
「ああ」
私の軽口に、シャロンは笑みを浮かべると、
「行くか、やめるかだ」
そう短く呟いた。
「危なそうなら、急いで引き返しましょう」
「いいぜ」
——魔導錬成
シャロンは、鋭利な剣を生成すると横穴へと足を踏み入れた。
私も背中に背負った大剣を、いつでも抜けるように構えると、彼女に続いた。
彼女の緊張を表すように、その足取りはゆっくりとしたものになる。
三人並んで歩ける程度の薄暗い空間をしばらく歩く。
壁には青白い輝きを放つ水晶のようなものが埋め込まれており、天井も同じように輝いていた。
まるでランタンを片手に、夜の森を彷徨うような気持ちになりながらも、奥へ奥へと進んだ。
「魔物はいないですね」
「…ああ」
先頭を歩くシャロンは、緊張しているのか額から汗が流れている。
「私が先に歩きますよ」
「…悪いな」
珍しく口数の少ない彼女と、位置を変わる。
特に何も感じない私の感覚が壊れているのだろうか?
私は、ゆっくりと弧を描きながら下る洞窟内をまた進む。
だが、歩いても歩いても、魔物の姿は見えず、洞窟内の景色も変わる事はなかった。
——それが、異常な事だと気付くこともなく
私達は、ただひたすら奥へ進む。
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