111話 冒険者の見る景色
夢喰いの大穴 第四階層
数日前の魔物の狂宴が嘘のように静まり返る中、私達は最短ルートを進んでいた。
ただ中層部と名付けられるここは、上の階と違い冒険者の数が極端に減る。
必然的に魔物と遭遇する頻度は増えるが、問題なく処理していた。
——ズシャッ
振り抜いた私の大剣が、二股の蛇を両断すると、その断面から魔石が姿を現す。
「随分、慣れてきたじゃねぇか」
「似たような位置に、ありますからね」
大した感情も込めずに答えると、魔石を引き抜く。
現れるのは爬虫類型か、昆虫型の魔物ばかりなのだ。
「もうすぐ目印の場所に着くはずだぜ」
シャロンの言葉を受けて、地図を確認する。
どうやら目的の場所は近いようだ。
「ここですね」
しばらく進んだ先で、私達は目的地に到着した事を察した。
なぜなら、目の前に巨大な縦穴が出現したからだ。
まるで奈落の底に繋がるような暗闇が、ポッカリと口を開けていた。
「ここで、休憩するか」
「…芋はないですよ」
「安心しろ、料理道具もないからな」
シャロンの提案に対して、私は軽口を叩くが、それ以上の軽口で返された。
彼女は荷物袋から干し肉を取り出すと、私に放り投げる。
受け取った干し肉は硬く、あまり美味しいとは思えなかった。
しかし、贅沢を言える環境でもないのだ。
「水は出せるか?」
携帯用の水筒に魔法で水を注ぐと、私に問いかける。
「…いえ」
使えるのだが、今は制限をかけているのだ。
途中で解除すると、やり直さなければいけない奥の手の欠点でもある。
それだけ、高度な魔法なのだ。
「ふぅん、まあ、いいけどよ」
そう言うと、彼女はもう一つの革の水筒に水を注ぐと、こちらに放り投げた。
「すみませんね」
「水なしでこいつは食えたもんじゃないからな」
そう言って苦笑いを浮かべると、干し肉にかぶりつく。
長い金髪を鬱陶しそうに掻き上げながら、テーブルマナーの欠片も感じさせない様子は野生的だが、不思議とその仕草は似合っていた。
そんな彼女を横目に見ながら、私も干し肉にかじりついた。
濃縮された塩味と、薄い肉の味が口の中を支配する。
その中に、水筒から水分を流し込むと、丁度良い味わいに変化した。
口内で完成する冒険者の料理なのだ。
五月蝿いマナーもなければ、テーブルも椅子もない。
お洒落な音楽の代わりに、店内には遠くから魔物の叫び声が響いている。
空調は天然の地下洞窟なだけあり、少し肌寒い。
そして、見上げれば星空のように輝く鉱石の数々。
それは、地上では見ることのできない幻想的な光景だった。
控えめに言っても、最高だろう。
食事を終えると、私は立ち上がり軽く体を伸ばした。
「そろそろ行きますか?」
私は彼女に尋ねる。
正直に言えばもう少しゆっくりしていたかったのだが、時間は限られているのだ。
「そうだなぁ」
まだ休みたいのか、シャロンは座ったままだ。
「カミラさんから聞いてません?」
「何をだ?」
「下層部の地図なら、金貨の価値があるらしいですよ」
私は彼女から聞いた情報を伝えると、シャロンは勢いよく立ち上がる。
「…ったく、そういう事は早く言えよな?」
「…知ってるのかと思ってましたよ」
私の肩に腕をかけるシャロンに、呆れたように溜息を返す。
「知らねぇよ。公爵様が探索してないんだから、価値なしって判断されたんだと思ってたんだよ」
「価値なし?」
「おかしいと思わないか?たかが五階層で、地図が終わってるんだぜ?」
「…なるほど」
確かに、彼女の指摘は正しい。
冒険者はともかく、正規軍が探索をしているのならば、こんな浅い階層で終わるはずがないのだ。
それが第五階層で終わっているという事は、それ以上先に進む価値がないのか、それとも…。
その答えは、すぐ先に見えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます