100話 第三階層

第三階層


静寂に沈む巨大な空間は、星空のような煌めきに包まれていた。

目の前には広大な地底湖が広がり、水際にそびえる壁には、青白く光る鉱石が大量に露出している。


そんな幻想的な景色に、鈍い音を響かせた鉄塊が一閃する。


——バキィンッ!!


まるで硬い物を砕くような甲高い音と共に、私の放った一撃は巨大なムカデのような魔物を大きく斬り裂いた。


青白い鉱石の床に転がる胴体の断面は、青黒い液体を噴き出している。


その様子を眺めながらも、間髪入れずに襲いかかるもう一体の魔物に向けて、大剣を振り下ろす。


——グチャッ

 

不快な感触を味わいつつも、素早く距離を取る。

その瞬間、切断面から大量の緑色の体液が噴出した。

 

魔物の体は真っ二つに裂けて、ゆっくりと倒れていく。

周囲に視線を走らせる。


……残りは?


気配を探るが、もう近くに魔物はいないようだった。


「ここなら稼げそうだな」


昆虫型の魔物の首を飛ばしながら、シャロンは魔石をえぐり出し、こちらに投げてよこす。

それを受け取って、彼女が持ち込んだ大袋に入れた。

 

「冒険者も随分減りましたね」

「あんだけ場所取りしてりゃな」

 

彼女は道中の戦闘を思い浮かべているのか、苦笑いを浮かべる。


第二階層も各広場はパーティーが魔物を占拠していたのだ。

第一階層と合わせて、八百人近くの冒険者がいたのではないだろうか。


街で休息している冒険者が駆り出せば、この第三階層までが、上層部と分けられているのも納得がいく。


数の暴力で制圧できるのだ。


「…おっと、また来たぜ」


私達の前方から、壁の穴を抜けてきたのか、三匹の魔物が現れる。

大きな牙を持った鼠のような魔物で、私達を見つけると一斉に駆け出した。


——魔導錬成


シャロンは向かってくる魔物に対して、赤黒い剣を構える。


しかし、


——ズシャッ!!


鈍い音と共に、鼠のような魔物が頭上から落ちてきた巨大な何かに押し潰された。


その巨大な何かが糸を放ち、鼠の魔物を絡め取ったと同時に鋭い牙で串刺しにすると、食事を開始する。


「人を襲うだけじゃないんですね」

「そりゃ、そうだろ?」

 

シャロンは私の呟きに首を傾げた。


…洞窟内の生態系に、人が足を踏み入れているだけですか。


彼女達には当たり前の事実を、噛み締めるように頭の中で復唱していた。

そして、改めて巨大な蜘蛛に視線を向ける。


…魔物とはなんでしょうね?

 

私の知る限り魔物とは、体内に魔石を有するものを指す言葉だ。

一説には、魔素によって突然変異を起こした生物と考察されていた書物もあった。


「…まぁ」


背負った大剣に手をかけると、巨大な蜘蛛に向かって、大地を蹴る。


握った右手を、羽のように軽くなった鉄塊を、振り下ろした。


——ドゴンッ!


大剣を打ち付けると、地面が大きく揺れた。


巨大な蜘蛛だったものは、真っ二つに裂けると、断末魔をあげることなく絶命する。


「わからないなら、斬れば良いですね」


私の世界の常識に当てはめるのも馬鹿らしい。

ただ、目の前にいるのだから斬り伏せるだけだ。


私は満足げな笑みを浮かべて振り返ると、不満げな表情の彼女と目が合う。


「…俺の獲物だぞ?」


その様子に、思わず笑ってしまった。


…ああ、生きてるなぁ


私達は、それからしばらく第三階層で狩りを続けると、帰路に付くことにしたのだった。


 

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