95話 魔大陸帰りのギルド職員
冒険者ギルド 初心者の館
「ねぇ?聞こえてる?」
ギルド職員と思しき女性の蹴りが、壁に打ち付けられた男を容赦なく襲う。
その一撃は重く、骨が砕けるような音が響くと、彼は血反吐を撒き散らす。
その光景に、思わず私は後ずさりした。
すると、シャロンが私の肩を叩く。
「おいおい、なに立ち止まってんだよ?」
「…いえ、ちょっと理解の範囲を超える出来事がですね」
奥を見渡せば、数人の男達が床に倒れ込み、それ以外の者は顔を青ざめて見守っている。
私達が見ている事に気づいた彼女は、こちらに振り向くと、「あら?」と呟いて首を傾げた。
「なんだぁ?喧嘩か?…ん?」
シャロンは私の横を通り抜けて、同じように周囲を見渡すと、彼女と目が合い固まる。
「…カミラ、何やってんだ?」
シャロンの言葉を聞いた彼女は、面白そうに笑みを浮かべた。
「見ての通り、教育中」
「…はぁ?」
彼女の返答に、シャロンは珍しく困惑する。
…というか、
「知り合いですか?」
「ああ、だけど、こいつは魔大陸にいるはずなんだが…」
「転職したの」
彼女はあっさりと答えて見せる。
「転職?ギルドの職員にか?」
「そうよ」
「…マジかよ」
シャロンは驚きのあまり絶句する。
「貴方こそ、まさか冒険者に?」
「ああ、楽しそうだろ?」
「…野蛮…あんなとこに戻りたいだなんて信じられない…」
カミラは心底、嫌そうな表情を見せた。
「随分、楽しそうだったじゃねぇか…」
シャロンは昔を思い出すように、遠い目をしながら言う。
「…心外ね」
そんな彼女を見て、カミラは肩をすくめた。
「…それで」
シャロンがそう言いかけた時だった。
「ふざけやがって…夜道には気をつけろよ、テメェ…」
奥で倒れてた男が立ち上がり、怒りの形相で拳を握りしめていた。
他の男達も次々に立ち上がると、赤い唾を吐き、彼女に敵意の眼差しを向けていた。
「…そう」
そう言って、ため息をつくカミラ。
——魔導錬成
カミラが静かに呟く。
「ぐぁッ!?」
彼女に脅迫じみた忠告をした男の右腕が、一瞬で斬り落とされた。
「次は左腕」
「や、やめてくれ!!」
必死に懇願する男だったが、カミラは無慈悲に微笑む。
「…教育不可能」
そう言って、予告通り左腕を切断した。
…不可視?
私は、その光景を冷めた目で分析していた。
私の魔法とよく似ているが、予備動作がないのだ。
カミラは、ゆっくりと両腕を失った男に近づく。
「…昼間も気をつけましょうね?」
「ひぃ!」
怯える男に、カミラが優しく微笑みかける。
立ち尽くす男のズボンから、黄色い液体が染み出した。
「…漏らしましたね」
私は無表情に感想を述べる。
「…あれで、ギルド職員かよ」
シャロンが、呆れたように小声で呟く。
そして、男の心の臓が不可視の何かに抉られると、そのまま事切れた。
「貴方達も、教育不可能?」
カミラは、睨みつけてきた男達に、優しく微笑みかける。
「ヒィッ!!」
その言葉に、男達は一斉に顔を横に振る。
「…なら、掃除しておいて」
そう言って、カミラは踵を返すと、こちらに歩いてきた。
「待たせたわ、冒険者登録?」
まるで、何事もなかったかのような口調で話す彼女に、私達は苦笑いする。
「…ああ」
「奥の部屋に案内するわ」
必死で床を磨きながら、死体の処理をする男達を尻目に、彼女はギルドの奥へと歩き出した。
「…イカれてんだろ?」
「なかなか個性的ですね」
「ったく、あれを見てヘラヘラしてるてめぇも、やっぱイカれてんな」
私達の会話を聞いているのかいないのか、彼女は振り返る事なく奥の部屋へと消えていった。
カミライメージ
https://kakuyomu.jp/users/siina12345of/news/16818023211765078718
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