67話 聖女と砂の王

砂の王


人が定住する前から、砂漠にいたのか定かではない程、古い時代に遡る。


サンドノース領の前身の国では、その王国の滅亡と共に、砂の王との共存方法が失われたらしい。


もっとも、サンドノース領として平定したマリオン侯爵が、百体近くの砂の王を討伐した事から、暫くはその脅威を潜めていた。


否、砂の王は絶滅したと考えられていた。


その苛烈な殲滅戦は、歴史に刻まれている。

当時、王国最強を誇ったその戦力と財力を元に、莫大な費用がかかる魔導爆弾を作成したのだ。


そして、それを奴隷に抱えさせた。


残酷だが、合理的な方法で、砂の王に魔導爆弾を飲み込ませる。

知恵のない生物には、実に効果的であったという事は、戦果が示している。


もっとも、砂漠の下から強襲を受ける事を繰り返して、生き残れる精鋭が必要な点を除けばだが…。


それから、長い年月が経ち、人々が砂の王を過去の怪物とした時代、奴らは再び姿を現した。


「そんな時に、一人の女性が現れたのさ」


私に物語を語るアラン。

ガクとナナは、何杯目かのエールをグラスに残して机にうつ伏せている。


「後にフォルトナ正教の聖女と呼ばれる彼女はね…」


その女性は、何かを探していたらしい。


どこからか現れて、皆が止めるのも聞かず、一人砂漠を歩いて行った。


暫くして、サンドノースの隊商が危険を承知で旅に出る。


「そこで、焼け焦げた無数の砂の王を発見したってわけさ」

「あれを魔法で焼くなんて、随分な使い手ですね」


あのエリー様でさえ、単独討伐は不可能だったのだ。

もっとも、相性が最悪…とは、こぼしていたが。


「…まるで、見た事があるような言い方だね?」

「物語の挿絵で見たのですよ」


斬った事があるとは言えず、無難に答える。


「でも、まだ砂の王はいるのです?」


地下深くに巣があるのだろうか?


「随分減っているとは思うよ?昔を知らないから、なんとも言えないけどね」

「確かに、比較がありませんよね」

「ただ、僕はそのルートで行商はしたくないかな」


そう言って、アランは苦笑いを浮かべた。


「そろそろ、部屋で休もうか?」

「二人は酔い潰れてしまってますしね」

「そのうち起きるさ」

「宿代や部屋は?」


店員と思われる二人は、酔い潰れているのだ。


「鍵は内側からかかるから、空いてる部屋で良いと思うよ。支払いは明日だね」


それなりに呑んだはずのアランは、足取りにそれを感じさせる事もなく、2階へと続く階段を登る。


私も、熟睡する二人を残してそれに続いた。


「じゃあ、おやすみ」

「ええ、おやすみなさい」


それぞれ、別々の部屋の扉を開ける。


私は久々のベッドに潜り込むと、眼を閉じた。

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