66話 小さな冒険者

自由都市アリス 中央広場


無事?両替を終えた私は、商館の外へと出る。


「僕は一泊してから、南に向かうけど、アリスはどうする?」

「そうですね、荷台は空いてますか?」


私の横に並ぶアランは、不思議な顔をして、


「旅は一人より、二人の方がいい。そうだろ?」


端正な顔で、屈託のない笑顔を向ける彼に、私も自然な笑みで返す。


「じゃあ、良い宿があるから案内するよって言っても、この街に宿は一つなんだけどね」


軽口を叩くアランに連れられて、私達は中央広場から奥に入った一軒の建物の前に来た。


看板には冒険者ギルドの文字と、剣のマークが描かれている。


「いらっしゃいー」


そして、建物の中に入ると、予想外の一声。


冒険者ギルドなのに、いらっしゃい?


そんな疑問を抱きながら、声の方を向けば、褐色の肌の若い男女が座っていた。


「アランの兄貴じゃないですかー」


少年を卒業したばかりのような若い男が、こちらに声をかける。


「お前達、店員に転職したのか?」


それなりの仲のようで、アランは親しみを込めた声色で返す。


「あにきぃ、あたし達食いっぱぐれそうなんだよぉ」


少女のあどけなさを残すショートカットの女が、泣きつくようにアランの腕に手を回す。


「悪いけど、僕も食いっぱぐれそうなんでね、話だけなら聞くけどさ」


そう言いながら、二人が座っていた席へと座る。


「とりあえず、エールをって…誰に注文したら良いんだい?」


冒険者ギルドとは名ばかりの酒場に、店員の姿はない。


「あたしが聞くよー!エールは、3?4?」


ショートカットの女は、私の方を見て首を傾げてきた。


「ああ、アリスは飲むかい?って、お前達の分も僕が払うのかい?」

「「あにきぃ」」


泣きつくような二人の声に、わかったわかったとアランは答える。


「私もエールで…」


こういう雰囲気は、好きではなかったはずだが、自然とアランの横に座る。


…これも、旅の良さですかね。


そして、机の上に4つのエールが並べられると、


「出会いと再会に…」

「「乾杯!」」


掲げられたグラスが音を立てる。


「とりあえず、自己紹介からかな?」

「自由都市ナンバー1ルーキーのガクだぜ!」

「自由都市ナンバー2ルーキーのナナなのだ!」

「…アリスです」


アランに促された二人は、何かが抜けた自己紹介を叫ぶ。

私に至っては、名前しか告げていないのだった。


「なんのナンバー1だか、それじゃわからないよ」

「兄貴、そんなの決まってるじゃないですか」

「あにきぃ、ここは冒険者ギルドだよ?」

「ああ、二人は冒険者なのですね?」


冒険者…浮浪者一歩手前の根無草だったはずだが、彼らの誇るような自己紹介から考えるに、今の時代は違うのだろうか?


「困った事があれば、なんでも相談してくれよ?」

「冒険者とは、立派な職業になったのですね」


自信満々に親指を立てるガクに、私は認識を改める言葉を返す。


「…冒険者を目指すアリスには、言いにくいんだけどさ…そんな立派な職業じゃないからね?」

「明日のご飯にも困る職業なのだ!」


可哀想な子を見るアランに、ナナの言葉が追い討ちをかける。


どうやら浮浪者一歩手前の根無草という認識は、変わっていなそうだった。


「そういえば、他の人達はどうしたんだい?護衛に出てるのかい?」

「あ〜兄貴、護衛の仕事はもうダメさ」

「あにきでさえ、使ってくれなくなっちまったさぁ」


二人の言葉に、アランは珍しくしまったという顔をした。


「俺ら以外は、みんな王都行きよー、魔大陸とか言ってたぜ?」

「ああ、それで…」


アランはガラリと空いた店内を見渡す。


「あたしは残って正解だと思うー、依頼独占!」

「…なんて、思っていた日もありました」


ナナが一人ツッコミをいれる。


「一番金になる護衛も、サンドノース城行きしかないとかよー」

「砂漠は嫌!砂の王のご飯になっちゃうの!」


酔いが回ってきたのか、饒舌に語り出す二人。


「…砂の王ですか」


懐かしい響きに、私は呟く。


「エルムでも、砂の王は有名なのかい?」

「そうかもしれませんね」


私は微妙な答え方をした。


「あんな化け物、マリオン侯爵か聖女さまじゃないと無理なのー、無理無理」

「マリオン侯爵の物語は知っていますが、聖女と砂の王?」


フォルトナ正教の聖女だろうか?

私の知らない物語に、興味が湧くのであった。

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