第52話 荒野に三人

光が降り注ぐ。

いつか見た虹色の光だ。


「…夢かしら?」


幻想的な虹色の欠片に包まれた王女は、呟く。


「…守護騎士様」


王女の横に立つリリスは、虹色の欠片に手を伸ばし、呟いた。


お互いの声に、その近い距離を確認し、二人は辺りを見渡す。


「…ここはどこ?」


王女は、自分の記憶が魔法陣の発動で途切れた事を確認する。


「…わからない」


リリスも、同じ景色で記憶が途切れていた。


やがて、虹色の欠片が消える。

二人の前には、黒髪の少女が倒れていた。

周囲は、荒れ果てた荒野だ。


二人の脳裏に、抜け落ちた記憶の欠片がシャッターを切るように、断片的に通り過ぎる。


「…今のは?」


二人とも瞬間的に映された光景に、困惑の表情を浮かべる。


そして、王女はなぜという疑問を浮かべながら、自分のステータスを確認した。


あるはずの数字を確認する為に…。


「…リリス」


それを確認した王女は、すぐに妹に同じ行為を促す。


「…消えてる」

「ええ、消えているわ」

「…お姉ちゃん?」


リリスは、首を傾げた。

なぜ、姉は自分のステータスを確認しているのだろうと。


「あっ…い、言ったでしょ…私が助けるって」


王女はそう言って、誤魔化す。

これは、妹が知らなくて良い真実なのだ。


自分が、妹を助けた。

その事実があれば良いのだ。


では、自分が助かったのは?


王女は、空を見上げる。


「…守護騎士様」


確かに降り注いだ、虹色の欠片を思い出す。


……

….……


土の冷たさが、頬に伝わる。

あまりにも瞬間的に、膨大な魔素と体内の魔力を操作した為、貧血のように倒れ込んでしまったのだ。


両腕に力を入れて、ゆっくりと身体を起こす。


「あら、生きていたのね?」


声をかけてきたのは、いつもの王女殿下だ。


「マブダチ…大丈夫?」


珍しく心配そうな顔を浮かべるリリスの手を取り、立ち上がる。


「殿下も生きていたんですね?まるで、最後のお別れのようでしたよ?」

「そうだったかしら?」


皮肉をそのまま返したのだが、いつもの笑顔で受け流された。


「ここはどこかしら?」


すっかり景色の変わった荒野を眺める。


「…覚えていないのですか?」


確認するのだが、二人ともうなずくのだった。


だから、私は、


「殿下の魔法陣で、全て吹き飛んだのですよ」

「あら…」

「…破壊魔法?」


私の言葉に、二人は周囲をまた見渡す。

リリスが、物騒な事を呟いていた。


「帰りましょうか?徒歩ですが…」

「そうね、ただ徒歩にはならなそうよ」

「…あっち」


二人が同じ方角を示す。

地平線の先に、砂煙が上がっていた。


「なんでしょうか?」

「…ここはキヌス」


リリスが呟く。


「これだけ派手に吹き飛んだなら、来るでしょうね」


王女の言葉通り、小さな砂煙の中から騎兵の影が現れる。


それはやがて大きくなると、私達の前で止まった。

数百騎と言ったところだろうか。


「ここで、何があった!?」


隊長と思われる騎兵が、私達を見下ろし、有無を言わせない威圧を放つ。


王女殿下が、一歩前に出る。


「リリィ・エルム・フォン・アインザームよ!」


そして、ステータスを表示すると宣言した。


騎兵達は、その特徴的な耳に注目する。

隊長は馬を降りると、部下を王女殿下の元へと歩ませた。


ステータスを確認する兵士。

王女殿下に一礼すると、報告に戻る。


そして、隊長は馬を降りると、こちらへと、ゆっくりと歩んできた。


「失礼致しました」

「気にしてないわ」


頭を下げる隊長に、王族らしく振る舞う殿下。


「事情を伺いたいのですが」

「そうね…」


何から説明したら良いか、言葉に詰まっているようだ。

王女殿下は、空を見上げる。


そんな時だった。

後ろに並ぶ騎兵達の間から、一人の兵士が駆け寄る。


「報告!ルインズ様が、城にお招きするようにと伝令!」

「ルインズ様が?」


隊長は間違いではないかと、確認するかのように兵士に聞き返す。

兵士は言葉を発さず、ただうなずいた。


「…宜しいでしょうか?」

「ええ、その方が話が早そうね」


暫くして、送迎の馬車が現れる。

その横では、先程の伝令の兵士が、何かを耳に当てて、一人話していた。


「…電話?」


馬車に乗り込みながら、その不思議な光景に思わず呟いた。


「…どうしたの?」


先に乗り込んだリリスは、私の言葉に反応した。


「ああ、あの兵士が手にしている道具ですが」


仕草からして、携帯電話にしか見えないものを指差す。


「…知らない…でも、キヌスは魔道具の国」

「何かしら?」


私達の会話に、優雅に腰掛ける王女殿下が興味を示す。


「魔道具でしょうね?」


私の指差したものを確認して、王女も興味がなさそうに答えた。


「…なるほどね」


もしあれがリアルタイムの通信手段だとすれば、キヌスが覇権国家となるはずだ。


「まったく、天才っていうのは厄介ですね」


遠い昔、カレンと交わした雑談を思い返す。


私には、何気ない知識だった。

そして、表面的な知識だけでは、何も作れない。


「…墓の中からリベンジだけは、やめて下さいよ」


人間は、恐ろしいのだ。

たった数百年で、世界を変えれるのだ。


私は一人、窓の外へと呟いた。

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