第51話 守護騎士の魔法

傭兵の街。

大森林と呼ばれる森から、突き出た古城だ。


それがたった今、一人の少女によって、見渡す限り荒野に姿を変えられたのだった。


虚ろな瞳の少女は、荒野にただ独り立ち尽くしている。

その周りには、誰もいなければ、何もない。


「…壊さなきゃ…世界を…」


黒髪の少女は、真紅の右目を輝かせる。


…まったく


「物騒な事を言ってますね」


私は奥の手を発動させて、大地に足をつけた。


…死ぬのは、これで二回目ですか。


「…どうして?」

「ああ、どういう原理の魔法かわかりませんが、思いっきり食らいましたよ」


切り札の次元魔法で回避できないのは、初めてです。


「…殺して…壊しちゃうから…」


リリスは、悲しく呟いた。


両目に魔力を込める。

周辺の魔素は、綺麗に消えていた。

そして、その空白を埋めるように遠くから、大量の魔素が雪崩れ込んでいる。


右手に、僅かな魔力を込める。


「私はね、奇跡なんて信じないんですよ」


リリスは私の言葉を受け入れるように、無防備に立ち尽くしている。


「最後に教えて下さい」

「…?」

「王女殿下は、本当にあなたを助ける為だけに戦っていたのですか?」


私の知る彼女は、そんな立派な人間じゃないはずなのだ。


「…二人とも助かる方法を探した…でも、失敗した」

「そうですか」

「…これが運命」

「…気に入らないですね」


これが運命なんて言うのなら、気に入らない。


「魔法は理論…だから、運命」

「魔法は理論?それは科学ですよ」


右手をリリスに向ける。


「…魔法なんて、単純です」


気に入らない世界を…理不尽な世界を…不条理な運命を変える力。


周囲に流れ込む膨大な魔素を、右手に集める。

リリスは、僅かに身構えた。


「そう言えば、守護騎士が詠唱魔法の開祖らしいですね?」

「…うん」


身構えたリリスが、僅かに期待する瞳を向ける。


「…それは、嘘ですよ」

「…なぜ」


なぜ、そう言い切れるのかと、リリスは期待するかのように呟く。


「…本物の守護騎士の魔法、見てみたいですか?」

「…本当に?」

「ええ」


リリスは、身体から力を抜く。


「本物の魔法は、イメージなんですよ」


私の前には、あの捻くれた王女殿下がいるのだ。

私の前には、その王女に隠れるリリスがいるのだ。


大気中の魔素を、全て濃縮する。

それがリリスの身体を包み、魂の器を浮かび上がらせた。


私にとって、当たり前の姿を思い描く。

浮かび上がった魂の器は二つに分かれ、魔法陣が浮かび上がった。


「…必要ない」


それを否定し、魔素を流し込む。

奥の手の副作用のせいで、自分の魔力はあまり使えないのだ。


やがて、魔法陣が割れ、虹色の光が飛び散った。


そして、その降り注ぐ光の中に、二人の姿が浮かび上がる。


「だから、魔法なんですよ」


無理をした身体が、悲鳴をあげる。

私は地面に倒れ込むのだった。



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