第48話 独り傭兵の街へ

時は遡り、隊商宿。

アリスは、その一室に置き去りにされていた。


「なんなんですかね?いったい?」


見た事のない現象を思い出し考えるも、答えが出ない。

ただ二人はあの現象が、何かを知っているようだった。


——お別れの時間


リリスの言葉が浮かび上がる。


「…気に入らないな」


知らない所で話が進められて、蚊帳の外のまま終わるようなのだ。


窓の外、二人が馬を走らせて消えた方角にサーチ魔法を走らせる。


二人の魔力を察知し、更にそのかなり遠くに魔力の集まりを見つけた。


「…傭兵の街だと良いんですけどね」


そして、その魔力の集まりに向かって、魔法を発動させた。


隊商宿から、私の姿が消える。

目標の魔力に向かって、飛ぶ感覚が空間を支配する。


しばらくして、捉えた魔力の場所へと転移した。

私のオリジナル魔法だ。


辺りを見渡す。

星空の下、文明的な灯りに照らされた建物が何軒も並んでいる。


「…傭兵の街ではないか」


どちらかというと宿場町のような規模に見える。

宿舎と思われる建物の扉を、ノックした。


扉はすぐに開かれ、一人の兵士が姿を現す。

兵士は私の姿を視界に捉えると、視線を外し、辺りをキョロキョロと見渡した。


「あの?」

「…どちらの使いか?」


どうやら小間使いに、間違われたようだ。

正確には間違ってはいないのだが、残念ながら主人は不在だ。

置き去りにしたとも言う。


「ええ、傭兵の街はどちらか聞いてくるようにと」

「それなら…」


兵士は怪しんだ視線を隠そうともせず、指差す方角と私を交互に見る。


「…主人はどちらに?」

「ありがとうございます!」


探りを入れてきた男の言葉を、全力の笑顔で振り切り逃げた。


そして、建物の屋根に飛び乗ると、示された方角に魔力を飛ばす。


だが、それらしい規模がサーチ魔法に引っかかる事はない。


念の為、もう一度魔力を飛ばす。


「…おかしいですね?」


屋根から飛び降りるとまた先程の扉をノックした。


「……」


男は怪しんだ視線を、隠そうともしない。


「主人から、本当にあちらの方角かと確認してくるようにと…」


精一杯の笑顔で愛想を振りまく。


「そこの街道を、真っ直ぐ進めば間違いない」


そして、先程と同じ方角を示す兵士は、言葉を続けようとするのだが、


「ありがとうございます!主人は少し変わり者でして…」

「…ああ、確かに今更、傭兵の街へなんてな」


私の先制パンチが効いたのか、任務以外の事をするのに躊躇いがあるのか、男の言葉はそこで終わった。


男が指し示した方角へと進む。

それ程、大きくない宿場町は、すぐに柵で囲まれた外門へと辿り着いた。


その先は、真っ直ぐと伸びる街道が、月明かりに照らされている。


その先に、魔力の反応はない。


「とりあえず、走りますかね…」


私のオリジナル魔法の欠点だ。

魔力を目標にして飛ぶから、目標が無ければ飛ぶ事ができないのだ。


無駄に高いステータスを頼りに、街道を駆ける。

幾度かの休憩を挟み、また駆ける。


昔よりも整備された街道は、私を迷わす事なく、ただ一直線に道を示していた。


やがて、見覚えのある城壁が、森の中から姿を現す。


「…懐かしいですね」


相変わらず、手入れのされていない城壁だ。

そして、速度を緩める事なく城壁の中へと駆け込んだ。


深夜という事もあり、街は静まり返っていた。

だが、あまりにも静かすぎる。


一つも灯りがないのだ。

一つも魔力の気配がないのだ。


そして、領域の気配もないのだ。


昔と変わらぬ酒場を横目に通りすぎる。

その先にある領主の家。

変わらぬボロ屋の扉を開ける。


「生きてますか?」


——やあやあ、いらっしゃい。待ってましたよ


あれがいたなら、侵入に気づかないはずない。


そんな期待を込めた言葉は、真っ暗な室内へと消えていった。


扉を閉め、反対方向の豪華な建物に足を進める。


建物には、やはり人の気配はない。

そして、扉の前に貼られた看板が目に止まった。


「…廃業ですか」


なるほどと、静まり返った街を見渡す。


「…困りましたね」


私は傭兵ギルドの扉の前に腰掛けた。


変人エルフに聞けば、何かヒントが貰えそうな気がしたのだ。

マキナに締め上げて貰う必要はあったのだろうが…。


だが、その二人の姿がない。

それどころか街に、人の姿がないのだ。


「…とりあえず、寝ますかね」


星空を見上げると、よく知る二階の窓へと視線を移した。

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