第14話 魔法陣 後編
魔法陣
今から百年と少し前に、覇権国家キヌスの大魔導師ルインズが完成させたとされている。
もっとも大魔導師は自称であり、本人は呪印魔法と呼んでいたそうだ。
本棚から取り出した魔法陣基礎という本を、パラパラとめくっていく。
基本的な形は円形であり、これは魔力を循環させる為のようだ。
そして、記述される文字の組み合わせにより効果を発動する。
ただし、エルフ文字で書けば何でも発動するわけではなく特定の用語があるようだ。
複雑な魔法陣になると補助図形を付属させたり、条件定義の前文があるようだが、
「これは…まるで、プログラムのようですね」
王女殿下に勧められた薄い本を閉じて、呟く。
「何かわかったかしら?」
「わからないって事が、わかりましたね」
机に座る王女殿下も大した期待はしていなかったようで、
「変わり者のエルフが、千年近く研究したって言うのだから、そうなのでしょうね」
「キヌスの大魔導師なら、本人に聞くのが一番なのでは?」
エルムとキヌスは、二百年余り続く同盟国なのだ。
まだあの風習が残っているのなら、聞きやすいのではないだろうかと、遠い昔の大将軍カレンの顔を思い浮かべる。
「本人に聞きに行ったわ」
「では、」
「その結果が、その魔法陣の本達よ。それ禁書なのよ?」
どうやら、何気なく本棚に並べられたこれらは、キヌスの国家機密に相当する研究書で、エルムの頼みだから譲ってもらったらしい。
「私の後を追っても、同じ結果にしかなりませんよ…なんて言われたわ」
「それは、そうなんでしょうね」
私は並べられた本達に、愛想笑いで返す。
「王女殿下は、なぜ魔法陣の研究を?」
いくら懇意にしている同盟国とは言え、禁書指定する程のものを貰うには、それなりの熱意が必要なはずだ。
私の何気ない質問に王女は、物憂げな表情を見せる。
そして、机の上で寝転ぶミーちゃんを撫でながら、
「…逃れられない運命ってあると思う?」
「逃れられないですか?」
意味深な言葉に、私は考える。
「自然現象や摂理とかでしょうかね?」
「あなた難しい言葉を使うのね」
私の言葉に王女は少し驚いた顔を見せ、クスクスと笑い出した。
「それで、魔法陣と運命がどう関係するんですか?」
「運命と戦う為に、魔法陣を研究しているって言ったら?」
初めて見せる屈託のない笑顔で、彼女は告げた。
「世界の危機とでも戦うんですかね?」
「ええ、世界の危機と戦うのよ」
そしてまたクスクスと笑い出す。
どうやら完全に冗談を言って、会話を楽しんでいるようだ。
「話したくないなら、聞きませんよ」
「あら?話したじゃない?」
彼女に友人が出来ない理由を、また一つ付け加える。
「まあ、いいですけどね」
禁書と聞いて、より興味を引かれた本を手に取り、ソファーへと座る。
「寝転んで読んでも、良いですか?」
一応の確認。
非常識だと言われようが、この方が集中して読めるのだ。
「…寝転ぶ?」
だが、常識の塊で育ったであろう彼女には意図が伝わらなかったようだ。
私は非常識の見本を見せるように体を傾け、
「…こうやって読むと、快適なんですよ?」
「…好きにしなさい」
読み解いて欲しい気持ちと葛藤したのか、一呼吸おいてから、心から蔑んだ視線と声色が送られてくるのであった。
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