140-2話 領主とは 中編
小さな街 宿屋の外
身支度を整えて宿屋を出ると、そこには20人ほどのチンピラにしか見えない男達がいた。
統一性のない戦鎧をまとい、無精髭を生やした者の姿も見える。
正規兵、ましてや騎士の姿とは、かけ離れているのだ。
「領主様が私達に御用があると、伺いましたが?」
「…ああ」
一歩前に出た私が声をかけると、先頭の男は上の空のような返事を返してきた。
男は、私達を観察すると、深く被ったローブを覗くような目線で…少女…ハーフエルフ…獣人…ハーフエルフ?と、呟いている。
「…人違いではないですか?」
「いや、ついてきな」
確認の言葉を遮り、まるで当たり前のように手招きをした。
「私達は、用がないんですけどね?」
「嫌とは言わせねーぞ?」
私を少女と認識した男は、余裕の笑みを浮かべる。
さて…
話し合いの余地はないですね、と私が踏み出そうとした時だった。
後ろから、私を止めるように誰かの手が肩にかかる。
「…ルル?」
「また三流の仕事をするつもりですか?」
私とルルにしかわからない言葉を発した。
「面倒臭いのは、嫌いなんですよ」
早朝から身支度をさせられて、気分もよくないですしね。
「だから、名無しさんはバカなのです」
ルルは、頭が痛そうに呆れた。
領主の兵士達は、そんなやり取りを意味がわからない顔で、ただ眺めている。
「何をしようとしたのだ?」
同じように意味がわからなかったクリスが、問いかける。
「名無しさんは全員、殺そうとしてました。ついでに、この街も焼き払ったかもしれません」
淡々と告げるルルに、男達は驚いた顔を浮かべた後、笑い声を漏らす者が現れる。
「…本当なのです」
そんな者達に、ルルは呆れた顔で真剣な眼差しを向ける。
ルルの目から、同類の匂いを嗅ぎとった男達は、笑い声を潜めた。
「…なるほどな」
クリスは私に視線を移すと、そなたの事が少しわかったぞと言うように呟いた。
そして、私より一歩前に進み出ると、
「領主殿は、私達に話があるのだな?」
「…ああ」
先程と違い、不気味なモノを見るような疑念の瞳で男は答える。
「仮にも領主たる者が、このような無礼な振る舞いで迎え入れよと言うのであるか?」
「…ボスは、丁重におもてなししろって…」
「…これが、丁重であると?」
困ったように呟く男に、追い討ちをかけるクリス。
「いや、だって…部屋に押し入らず…外で大人しく待ってたよな?」
「ああ、逃げれないように馬車に手をかけるなんて事もしてないしな?」
丁重の意味を、ザワザワと騒ぎ立てる男達。
どうやら思考と常識が、身なり通りに盗賊あがりのようだった。
「誤解があったようであるな。そなた達が、礼を尽くそうとした事は理解したぞ」
そう言うと王女殿下は、男達の方へと足を進める。
「領主殿の招きに、応じようではないか」
そして、ついてくるが良いと、こちらを手招きするのであった。
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