193話 祝賀会
中心区1階 会場
数日後、ノース侯爵と友好が結ばれた記念日として、立食形式の祝賀会が開催されていた。
もっとも、王都エルムに留まったノース侯爵側の人数が少ない事と、王都に残った宮中伯達は解雇待ちの謹慎中である為、参加者は少ない。
クリスとマリオンは主役同士、形式的とは言え、笑顔で会話を交わしている。
昨日までの敵を受け入れるという事も、王の器なのだろうか。
黒髪の青年は、勇者と呼ばれていた人物だったようで、
「君、強すぎるよ」
と、少し会話を交わした後、ハーフエルフの騎士達と交流しに離れた。
エリーは、
「また、やりましょうね」
と、私に苦笑いを浮かべさせると、部屋の隅で居心地が悪そうに、一人淡々と食べている。
そして、私も同じように早く帰りたいなと、ルルが私を見て、嫌そうな顔で配膳する料理を、隅で味わっていた。
「アリスちゃん!」
そんな私に、マリオンが後ろから抱きつく。
変わらぬ彼女を無視して、私は料理をつまむ。
「そなた達は、知り合いだったのだな。先程、マリオン殿から聞いたぞ」
私は静かに食事を楽しみたいのに、なぜ主役の二人が来るんですかね…。
当然、会場の視線は人が少ないせいもあり、こちらへと集まる。
だが、そんな事は関係ないのか、マリオンは昔のように私に抱きつき、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「昔の主人かもしれぬが、今は私のものだ。離れるがよい」
クリスが呆れたように、私とマリオンを引き離そうと手をかけた。
「嫌よ、ずっと離れ離れだったんだから」
少し背丈の伸びたマリオンが、子供のように駄々をこねた。
そのあまりに落差のある姿に、クリスは驚いた顔をして、
「今夜は無礼講だ。好きにするがよい」
「好きにって、私の意思は…」
思わず、呟く。
そんな私に、クリスは面白い事を思いついた笑顔を向けると、
「言ったであろう?好きにするがよいと」
そして、他の者と交流する為に、席を離れた。
「王女様はアリスちゃんに、冷たいのね?私なら、離さないのに」
「離して下さい…色んな人に見られて、ノース侯爵の立場がなくなりますよ?」
「その程度でなくなるものなら、そんなものなのよ」
後ろから抱きしめたままの彼女は、まったく気にしていないようだった。
「アリスちゃん…」
「…なんですか?」
急に弱々しくなる彼女の声。
「…探したわ」
「…すみません」
私は自分の意思で、彼女の元から離れたのだ。
「奴隷紋、消えてるわね…」
「…ええ」
「…またつける?」
「…すみません」
彼女と私の繋がり。
「あの力…アリスちゃんは、何者かしら?」
「…私は私です」
「…そう」
その言葉を最後に沈黙が流れた。
ただ、私を抱きしめる彼女の腕の強さは変わらない。
また長い沈黙が流れた。
そして、マリオンはようやく私から、離れると正面に立ち、
「決めたわ」
「何をです?」
「砂漠の国と戦争しているのは、知っているわよね?」
3年前のあの日、砂漠へと出兵した事を思い出す。
「10年待ってね。平定して、ここに帰ってくるわ」
そして、私の返事も待たず、彼女は貴族の顔で宣言するのであった。
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