194話 キヌスからの使者

中心区2階 王座の間


あれから、一か月が経っていた。

マリオンは同盟国として、最低限の話をまとめると、王都エルムに大使館を作る許可を得た事で、帰路についた。


あとの細かい調整は、外交官を通してという事らしい。


去り際に、女騎士が私に言った言葉が印象に残っている。


「貴殿は昔と容姿は変わらぬが、その立ち塞がる姿は、騎士のようであったぞ」


それを思い返して、笑みがこぼれそうになる。

そんな現実逃避を、今日もカカシはしていた。


なぜ、私はここにいるのでしょうかね。


王座にはクリスティーナ女王が、いつものように腰掛けている。

その横には、筆頭宮中伯と国民から宮中伯に抜擢された元第二王子の姿。


そして、私だ。


目の前には、都市国家キヌスからの使者として、カレンという女将軍が、片膝をついている。


「久しいな、カレン将軍」


女王陛下は既知の仲のようで、声をかけた。


「お久しぶりです、女王陛下」

「貴国が…それもそなたが、我が国へ来るとは、何かあったのか?」


クリスは、不思議そうに首を傾げた。


「女王陛下に一団を向けた責任を取りに参りました」

「…ああ」


傭兵の街から、王都エルムまでの道中、二度襲われたのだ。

だが、クリスは何か思い出したのか、


「そなたの責ではなかろう。そなたの主君のせいであろう?」


特に深い意味のないクリスの言葉に、カレンは眉を少し動かすが、表情は変えない。


そして、クリスの真意を見定めるかのように顔を向けると、


「いえ、作戦の立案から実行まで、私が行いました」

「…そうか」


カレンは敵地のど真ん中に来て、あなたを害そうとしたのは自分ですと宣言しているのだ。


クリスの兄が、珍しく感心したような声を漏らす。

筆頭宮中伯は、いつも通りだ。


「…智将と名高いそなたが、本気で仕掛けたのだな?」

「その通りです、陛下」


クリスとカレンの視線が交差する。

クリスは、頬を緩めると、


「私の騎士は、強かったか?」

「二度と戦いたくありませんね」


カレンは、なぜか私を見て言う。


「…そなたの主君は、どうであろうな?」

「その時は、蹴り飛ばしてでも止めましょう」

「…あの時のようにだな」


二人にしかわからない会話が、笑みと共に飛ぶ。


「そなたの謝罪を、受け入れよう」

「女王陛下のご厚情に感謝いたします」


そう言ってカレンは、深く頭を下げた。


「陛下、こうしてキヌスの大将軍がいらしてくれたのです。同盟を結ばれては、いかがでしょう?」


元第二王子が、その人となりを知る者には、胡散臭さを感じる言い回しで、発言する。


それを誰よりも実感するクリスは、ニコニコと笑みを浮かべる彼を、疑うような目で見た。


「カレン将軍の意見を聞きたいのだが」

「もちろん、我が国には願ってもない事です」


この日、様々な思惑が飛び交う中、西の強国と同盟が結ばれた。

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