192話 2つの光

王都エルム 中心区2階 玉座の間


国王が座る玉座に、クリスが王族の威厳を纏わせて腰を下ろしている。


その横には筆頭宮中伯と、なぜか私も同席していた。


そして、クリスの見つめる先には、片膝をつき首を垂れるマリオンと、武装解除した女騎士の姿だ。


女騎士は、副騎士団長へと出世していた。

ガレオン子爵領を任される未来は、ほぼ確定しているらしい。


「…そなた達の降伏を認めよう」

「受け入れて頂き、感謝します」


正式な発表はないものの次期女王と、ノース侯爵は短い言葉で、終戦を確認した。


「賠償金は金貨でしょうか?領土でしょうか?」


聞き慣れないマリオンの言葉遣いに、私は笑いを堪える。

だが、それを悟られたら、確実にこの二人から何を言われるかわからない為、必死でカカシの仕事に集中した。


「…いらぬ」


クリスの端的な返答に、マリオンは少し考えると、


「…私の首かしら?」


差し出せと言われたら、その通りにすると言わんばかりにクリスを見つめる。


「もっと、いらぬな」


その言葉に、マリオンは珍しく困惑の表情を浮かべる。


「私が、申し上げるまでもないですが、貴国には多大な損害を与えましたわ」


それなのに何もいらないと言われれば、マリオンの常識から考えて、何かあるのかと疑ってしまうのだろう。


「…我が国は、戦争の先にはまた戦争しかない事を知っておる。そなた達から、何かを求めれば、それは将来の禍根になろうぞ」


マリオンの困惑を理解したのか、クリスはそう告げた。


「…肉親を、殺されてもかしら?」


マリオンの言葉に、私は背筋が凍る。

この頭のおかしい子は、その言葉の意味を理解した上で話しているのだろう。


彼女の瞳を見る。

変わらない光が、灯っている。


彼女はまた命を賭けて、何かを確認しているのだろう。


「戦争であるからな」


クリスは、冷たい目で、短い言葉を返した。

その言葉は、色々な意味を省略しているようだったが、マリオンには伝わったようで、彼女は立ち上がる。


「陛下に提案がございますわ」

「申してみよ」

「ノース侯爵と、友好を結ばないかしら?」


対等な目線での提案。


クリスは、筆頭宮中伯の方を見た。


「陛下の御心のままに…」


筆頭宮中伯は、どちらでも良いようだ。


そして、次になぜか私を見た。

カカシの私は、何も返さない。


「そなたの意見が、聞きたいのだが?」


カカシである事を見透かされたのか、呆れるようにクリスは溜息を漏らす。


「東の脅威がなくなるのは、良い事ではないでしょうか?」


こうして私の無難な意見が、採用されたのだった。

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