188話 再会

ノース侯爵とガレオン子爵の騎士団の目前に、黒髪の少女が突如として現れた。


騎士達は困惑していた。

いきなり巨大な土壁が、先頭の傭兵達の前に現れたと思ったら、巨大な隕石がそこに降り注いだのだ。


十分な距離を離して進軍していなければ、自分達も巻き込まれたであろう。


十分な鍛錬をこなしていなければ、傭兵達のように味方に押しつぶされたであろう。


そして、状況を把握する間もなく、そこに似つかわしくない姿の少女が現れたのだ。


私は縮地で距離を詰めると、射程距離に入った騎士達に顔を向けた。


右手に魔素を集める。


「避けなさい!」


私が腕をなぎ払うと同時に、騎士達の方から女性の叫び声が聞こえた。


だが、その女性の言葉の意味を理解できない者達は、上半身と下半身が別れを告げる。


「…避けなさい?」


まるで私の魔法を知っているかのような言葉の先を、私は見つめた。


射程距離の奥には、まだ呆れる程の数の騎士達がいる。

そんな騎士達の一団の中から、驚く程速い動きで、こちらに距離を詰める影。


あまりの速さに私は一気に距離を詰められ、その一振りをかわした。


私の目前には、真っ赤なオーラを身体に包ませた黒髪の男。


フレイラと同じようなオーラをまとう青年は、どこか見覚えのある顔をしていた。


ただ、フレイラよりも速い剣速とその体捌きは、私に考える余裕を与えない。


目を慣らすように、青年の剣を避ける。

その間に、後退する騎士団の姿。


そして、その中で取り残されるように一人立ち尽くす女性の姿に、私の目が止まってしまった。


青年の剣が、私の頬をかすめる。

驚いた事に、真紅のオーラをまとったその剣は、私に傷をつけていた。


「…邪魔ですね」


私の頬の傷を見て、気を緩めたのかニヤリと笑う青年に縮地で距離を詰めると、その胴を蹴飛ばした。


青年は、勢いよく後ろへと吹き飛ぶ。

ただ、蹴った感触が軽かった事に、違和感を覚えたのだが…。


その答えは、すぐに帰ってきた。

吹き飛んだ青年は、体勢を整えるように着地したのだ。


器用な事に自分で後ろに飛んで、衝撃を逃したのだろう。


だが、そんな事よりも私は、目の前の女性に目を奪われていた。


「…エリー様」


なぜなら、そこには懐かしい人の姿があったからだ。


「…久しぶりかしら?」


少し老けた怠惰なご主人様が微笑む。

とても楽しそうな笑みを浮かべて。

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