187話 蹂躙戦

王都エルムまで、1日の距離の場所


ノース侯爵とガレオン子爵の紋章記を掲げた軍団が、目的地へと向けて進軍していた。


ハーフエルフの軍と当たり、その数は減らしたものの主力の騎士団2000はほぼ無傷であり、損害を受けたアルマ王国全土から集めた傭兵も1万は残していた。


ハーフエルフの軍は、驚異であった。

戦端が開かられると傭兵8000が、吹き飛んだのだ。

それでも、圧倒できたのは、もはや戦術とは呼べないものであった。


中央で、真正面からぶつかる傭兵達の左右から、突撃した、たった二人の力なのだ。


想定外の敵兵の数であり、想定外の犠牲者が出た。

だが、これ以上の想定外はないだろうと、掠奪に心躍らす傭兵達の足は自然と早まる。


そんな傭兵達1万を先頭に進む軍団の先に、一人の少女が立っていた。


私は、砂埃を上げる呆れるような数の軍団を前にしていた。


「あの中に、マリオンがいるのでしょうね」


私の弱い心は、未だ定まっていない。

数々の思い出が、剣先を鈍らせようとしてくるのだ。


何も背負うモノがない盗賊であったなら、逃げ出しただろう。

何も感じないバケモノであったなら、楽しそうに蹂躙しただろう。

だけど…。


「私は弱いんですよ。だから、加減なんてできないから、恨まないで下さいね」


マリオンに詫びるように、荒野の先へと呟く。


私は雑念を払うように、瞳を閉じた。

心を無にするように深呼吸する。


王女殿下の顔を思い浮かべる。

王都エルムの街を思い出す。


右手を姿鏡に突き立てた彼女の姿を…。

その姿を見て、込み上げた怒りを解放させるように…。


両目に魔力を込めた。


「私は王女殿下の騎士です。この先には、行かせませんよ」


荒野の先に聞こえるはずのない言葉。

ただ、自分に言い聞かせる言葉を呟いて、魔力を解放した。


掠奪を楽しみに、目的地へと駆けていた傭兵達の前に、巨大な土壁が隆起する。


突如として行く手を阻まれた傭兵達は驚きの声をあげた。

先頭を走る者達は、土壁と急には止まれない味方の大軍に挟まれ押し潰される。


私は、壁の向こうに見えなくなった軍団目掛けて、空中の魔素を全て集めた。


「…メテオ」


そして、そこにいるだろう集団目掛けて、もっとも効率の良い魔法を放つ。


今まで放った事のない最大規模の隕石群は、土壁諸共全てを消し去るように、降り注いでいた。


ただの一方的な虐殺。

そんな言葉が相応しい光景が、目の前に広がっている。


何十もの隕石が着弾する度に、大気が震える。

そして、舞い上がった砂煙が落ち着くと、変わり果てた地形と、人であったものが大量に飛び散る凄惨な大地が姿を現した。


あれほどの大軍は姿を消していた。

ただ、その奥には傭兵達の姿に隠れていた騎士団と思われる軍団が見える。


「死んで下さいね」


大量の懐かしい音色に、高揚する私は、また空へと手を掲げ、ソレを落とした。


だが、騎士団の中から空から落ちる隕石に向けて何かが放たれた。


氷の塊のようなその何かは、メテオと相殺されて隕石と共に砕け散る。


「へぇ…」


緋色に瞳を変色させた私は、高揚した気持ちが導くように嫌な笑みを浮かべた。


「少しは楽しめそうですね」


そう呟き、距離を詰めるように大地を蹴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る