161話 道化と女剣士

王都エルム 国民街 定食屋


休日を、気持ちよく昼寝で過ごしていた私は、なぜか女剣士フレイラと共にいた。


国民街の一角にある定食屋は、昼時を少し過ぎたせいか客の姿はまばらだ。


テーブルに座る人族の少女と女性。

三世代に渡り、素行に問題がなかった市民しか国民になれない為、ハーフエルフ以外の姿は珍しい。


ただ、人族であっても国民街にいるという時点で、身分の確かさが証明されている為、奇異の目を露骨に向けるものはいない。


そして、私達の前には、料理が運ばれてきた。


フレイラの料理の一品を見て、私は眉をひそめる。

ただの焼き芋が、皿に載っているのだ。


「…芋嫌いなの?」

「食べ飽きてるだけです」


遠い昔、毎日毎日、芋ばかりだったのだ。


「手軽に栽培できるもんね。ただ、わたしには思い出の味なんだよ」

「そういう意味では、私にも思い出の味ですね」


主に屈辱という思い出が、大部分だが…。


「…嫌な思い出なのかな?」


フレイラは少し悲しそうな顔で、聞いてきた。


「…不自由でしたからね。まあ、全部が嫌な思い出ってわけでもないですけど」

「なら、わたしと一緒だね」


彼女は、嬉しそうに表情を変える。

そして、焼き芋を半分に割ると、


「思い出の味…食べる?」


私に、片方を差し出した。


「遠慮します。食べ飽きてるんですよ」

「そう…あ、キミは、どうしてここにいるの?アルマ王国出身なんだよね?」


残念そうな顔で、返された芋を口に含んだ。


「色々あって、流れ着きました。フレイラさんは?」


私も自分の料理を口に含みながら、問いかける。


「人を探してたんだけどね」

「人探しですか、それは大変そうですね」


この広大な大地で人探しなど、まず見つかる事が奇跡だろう。


「そうそう。大変だったんだよ?この前なんて、南の村で盗賊に出会ってねー」


料理を食べながら、彼女の武勇伝に耳を傾ける。


王都エルムを拠点に、路銀を闘技場で稼いでは、当てのない旅に出る冒険譚だ。


だが、彼女は余程人に聞いてもらいたかったのか、熱心に私に語る。


「それで、次は王宮務めで路銀を稼いだら、また旅に出るのです?」


一通り話し終えた彼女に、問いかける。


「ううん、見つかったから、もう旅には出ないよ」

「ああ、それは良かったですね。奇跡的な運だと思いますよ」

「そうだよね、でも、この話には続きがあるんだ」


私の言葉に、フレイラは楽しそうに答えた。


「どんな物語なんです?」

「それはね…」


私の目を見て、フレイラは、次の言葉を探すように勿体ぶった。


「…ないしょ」


そして、はにかんだ笑顔で、子供のように答えるのであった。

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