160話 六畳一間の隣人

王都エルム 貴族街 宿舎4階


六畳一間の自室で、私は昼寝をしていた。

王女殿下との市民街への冒険から戻り、何度目かの休日である。


広い王都は国民街だけでも、まだまだ周り切れないのだったが、今日はのんびり過ごす事に決めていた。


次は、国民街の一画にある温泉街に行く事を、計画している。

侍従長の溜息が、また増えそうだ。


とは言え、クリスも遊んでばかりではないようで、会議がある日は、私は暇を持て余している。

そこは、王女付き宮廷道化師の出番がない、政治の世界なのだ。


「私の力が必要なら、呼ばれるでしょう」


クリスが語る夢を思い出す。


第五城壁の外は、市民による兵舎と耕作地が広がる最終城壁内。


クリスは、その外に街を作るのが、夢だと語った。

だから、今の王都エルムを知る事が、その一歩になるのだろう。


それを考えて、抜け出しているんだよね?と、壁に問いかけるが、沈黙が返ってくるばかりである。


コンコン


そんな都合の良い妄想を、寝ぼけた頭で繰り広げていたら、扉がノックされた。


珍しいですね。


ルルかな?と思い、部屋の扉を開ける。


扉の外には、豊満な双丘…ではなく、薄い水色が混じった白髪のフレイラが立っていた。


「こんにちは?」


予想外の人物の姿に、私は疑問を浮かべる。


「や、やぁ」


なぜか照れているフレイラ。


「ここは旧貴族街ですが、王宮務めだったのです?」


王女殿下と知り合いだったようですが、王宮務めが、剣闘士?


「いや、王宮務めは合わなくて、一回やめてるんだよ」

「はぁ」

「ただ、やっぱり戻ろうと思ってね。王女様にお願いしたの」


会うのは2回目なのに、随分砕けた口調で話しかけてくるフレイラに戸惑う。


「それで、なぜここに?」

「う〜ん、部屋が隣になったから、挨拶にかな?」


なぜ疑問形なのだろうと思いながらも、


「そうですか、それは、ご丁寧にありがとうございます」

「……」


形式的な挨拶に対して、私も形式的なお礼を述べたのだが、なぜか微妙な顔をされた。


「…?」

「良ければ、一緒にお昼を食べない?」


首を傾げる私を、フレイラは誘う。


「ええと…」


ほぼ初対面の相手からの急な誘いに、私が悩んでいると、


「ほら、行こ」


そんな私の姿を見て、なぜか楽しそうに笑うフレイラは、手を引いた。


この人、強引だな…


そうは思いながらも、美人の誘いを断れないのであった。

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