148話 王女殿下の夢
王都エルム
6重の城壁に囲まれ、北は海に面している。
その城壁の中心部に位置する王城。
その最上階に、私は案内されていた。
「よい眺めであろう?」
全てを見下ろせる最上階で、語りかける殿下。
「そうですね」
海なんて見るのは、元の世界ぶりかと感慨深くなると同時に、今まで見たどの都市よりも広い王都を見下ろす。
「私は、この国が好きだ。開祖が切り開き、皆が発展させて行ったこの国がな」
王女殿下の言葉に、耳を傾ける。
「私の夢はな、あの城壁の先に、もう一つ城壁を作る事である。そこには、人族も獣人もエルフも…そして、都市から追放された同族も住める街を作りたいのだ」
遠くに見える外周城壁を、指差す。
その先は、この高さからでも見えなかった。
「夢ですか」
「ああ、夢だ。私の代では叶うまい」
巨大な城壁は、一大事業なのだ。
魔物の襲来に対処しながら、気の遠くなるような作業で、壁を積み重ねていかなければならない。
「夢を叶える為には、力が必要だ。この国を、守らなければならない」
思い出すように殿下は、語る。
「…壊すだけの力なら、ここにありますよ」
「力は使う者次第なのだ。そなたの力を、私の夢の為に使うがよい」
王女殿下は、私へと視線を合わせる。
「そなた、私のものになるがよい」
出会った時と変わらず、迷いのない瞳は真っ直ぐとこちらを見つめ、その言葉には威厳と確信が、満ち溢れている。
私は、空を見上げた。
雲一つない晴天だ。
…眩しいな。
そして、殿下に視線を戻すと、
「殿下、剣をお借りしても?」
王女殿下が腰に下げる剣を、要求する。
殿下は何の疑問も思う事なく、鞘に収まった剣を私に渡した。
…我が命と剣は主の為に…
そう呟いた酔っ払いの姿を、思い出す。
私は、その姿を思い描きながら、片膝をついた。
「王女殿下、一つお願いがあります」
「申してみよ」
私の描く騎士は…
「王女殿下の騎士は、私だけで十分です。騎士団など、必要ありません」
私の言葉を、王女殿下はしっかりと噛み締め、
「…わかった。私の騎士は、そなただけである」
その言葉を聞き、私は初めて首を垂れる。
そして、鞘に収まったままの剣を王女殿下へと、差し出す。
それを受け取ると、殿下は剣を抜き、剣の平で私の肩を3回叩いた。
…我が命と剣は主の為に。
そして、顔をあげると、
「私からも、一つ言っておこう」
王女殿下は、少し不満そうな顔を浮かべ、
「私の事は、クリスと呼ぶがよい」
前にも言ったであろう?と、告げるのであった。
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