147話 王都エルム
「…知らない天井だな」
目が覚めた私は、ぼんやりする意識の中、目に入った部屋の天井に感想を漏らしていた。
混濁する意識の中、最後に記憶にあるのは騎士団と対峙した野外だった事を思い出す。
ここは、どこでしょうか?
最後の景色は、随分と気持ち悪かった事も思い出し、豪華な調度品に囲まれる部屋を横目に、額を右手でさする。
奴隷紋が、消えている?
見慣れた可愛らしい少女の手から、見慣れたものが消えている事に気づいた。
身体を起こし、貴族様かとツッコミたくなるようなベッドから降りる。
そして、部屋に置かれたこれまた貴族様かとツッコミたくなるような鏡の前に立った。
寝巻きに着替えさせられているが、見慣れたアリスちゃんである。
見慣れていないのは、奴隷紋が首筋と右手から消えている点ではあるが。
そして、私は首を傾げながら、部屋の扉を開けた。
扉の先には、どこか気品溢れる女性が兵士の格好で立っている。
…
……
………
「体調は、どうであるか?」
お嬢様のような女兵士が、慌てて呼び止めた結果。
王族らしい服装に着替えているクリスが現れた。
「お腹が、すきましたね」
部屋のテーブルで向き合う二人。
「ここは、どこですか?」
「王都エルムであるぞ」
なるほどと私は、うなづく。
記憶が抜け落ちているが、私は上手くやったのだろう。
「そなたは倒れ込んだままでな、クロード殿が引き継いでくれたのだ」
そんな私を見透かしてか、クリスは楽しそうに告げた。
「そ、そうですか」
格好がつかない為、苦笑いで返す。
「そういえば、二人は?」
「くーちゃん、いや、フィーナは私の専属メイドとして、侍従長から教育を受けておる」
くーちゃんに宮廷魔導師を提案したら、断られたと語る殿下。
「あの戦力は欲しかったのだが、仕方あるまいな」
「ははは、それは残念そうですが、ある意味、最強の近衛兵を手に入れましたね」
「やはり、そう思うか?」
そうであろうと、満足そうに答える殿下。
「ルルは、王宮の料理人見習いとして、働いておる」
王宮の仕事を一通り見て、ルルが決めたそうだ。
重い材料の束を軽々運ぶルルに、料理長は感激したらしい。
あいつ絶対、食べ物で決めたな…。
そんな事を考えていると、
「それで、そなたの報酬だがな」
王女殿下は、決心したように真剣な眼差しで、
「見せたいものがある。私に、ついてくるがよい」
そう告げるのだった。
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