146話 外伝 クリスティーナ・エルム・フォン・アインザーム

王都エルムの城壁が見える。


懐かしさと同時に、都市国家ラクバールで過ごした滑稽な日々と、王都エルムまでの冒険譚のような旅路を、思い出す。


勝手に帰ってきた私を、父上はどのような表情で、出迎えるであろうか?


あまりよい想像はできない。

だが、迷ったら進むと決めているのだ。


城門へと繋がる道の進路を握る、獣人の少女を見る。

アリスと繰り広げる口喧嘩は、私の憧れる友人関係のように眩しかった。


荷台の中で、珍しく嬉しそうな表情を浮かべる、六芒星の同族を見る。

その技量は、伝説の魔導師と言われても疑いようがなく、宮廷魔導師の地位を提案したが、


「フィーナの人生じゃ」


そう言って、フィーナの技量に見合う職を要求してきた。

私は、一計を案じる。


そして、荷台の隅に死んだように眠る、黒髪の少女。

出会った時と違い、首筋と右手の紋様は、青く輝いている。


「宮廷魔導師達に、診断させよう」


私の提案にルル達が、うなづく。


そして、堅く閉ざされた城門の前に、辿り着く。

門番の兵士が、小窓からこちらを確認した。


私は、荷台から降りると、兵士へと顔を向ける。


「お、王女殿下!?」

「正門を開けるがよい」


ここにいるはずがない私に、混乱する兵士。

だが、王族の命令は絶対なのだ。


……

………


懐かしい王宮。

私が歩みを進める度に、周りがざわめく。


ルル達を別室へと案内させ、呼び出した宮廷魔導師に、気を失ったままのアリスを預ける。


そして、私は、王の間の扉を開けた。


その先の王座には、懐かしい父上の顔だ。

横に並ぶ宮中伯達は、なぜか頭を抱えている。


「ただ今、戻りました」

「そのような知らせは、受けていないのだがな、我が娘よ」


よく見ると父上も、頭を抱えたいような表情をしている。

私が城を抜け出し、城下町へと冒険に出る度に見せていた、懐かしい顔だ。


思わず笑みが溢れる。


「王女殿下、困りますなぁ」


筆頭宮中伯が、本当に困った顔で漏らす。


「私を、ラクバールに置き去りにした首謀者は、誰であろうな?その者の首を、はねてもよいのだが」


私は、剣の柄に手をかける。


「やめよ。そなたの考えは、わかった」


父上である国王が、止める。


「私は、戦う為に戻ってきたのだ」


私の宣言に、


「好きにするがよい。我が娘よ」

「では、旅の途中で雇った者達も、私の好きにしてよいのですね?父上」


押し勝ったという歓喜を胸に秘め、さり気無く提案する。


「好きにせよ…」


国王陛下は、父親の顔で、諦めたように答えていた。

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