145話 奴隷紋 後編
「耳の奥に電撃を流すと、景色が揺れるのです」
猟奇的な人体実験の結果を、楽しそうに話すエルフ。
「魔族に試した事は、ないですけどね」
カレンは、その言葉に賭けた。
倒れ込む魔族。
カレンは、賭けに勝ったと確信した。
だが…
……
しかし、そんな結果を見ても、カレンの心は冷めていた。
過程はともかく、結果は想定の範囲内である。
そして、他人が何人死のうと、カレンの心は動かなかった。
そんなものは、狂人と恐れ蔑まれた時代に、捨ててしまったのだ。
だが、そんなカレンでも、唯一心を動かされる人物が、声をあげる。
「本陣を出陣させよ!」
瓦礫の山に姿を変える要塞都市を見ても、王女殿下を諦めきれないのか、第七王子は叫んでいた。
止める者などいない。
主が行けと言えば、例え地獄の入口であろうとも行くのが、騎士なのだ。
そんな子供のように駄々をこねる第七王子に、カレンは、
バチンッ!
第七王子の頬を、はたいた。
「殿下、これ以上は無意味…退却です」
「まだ主力は残っているのだ!突撃だ!」
あの惨劇を見ても、突撃を口にする第七王子は、バカなのであろう。
バチンッ!
カレンは、周知の事実を思い出しながら、返す手でもう片方の頬をはたく。
「目的は、達成したのですよ。部下を無駄死にさせる汚名を受けるのならば、主君殺しの汚名くらい喜んで、受けましょう」
笑顔で諭すように、カレンは、老将軍達の働きを無駄にしたいのですか?と、問いかけた。
「…じいの仇が、目の前にいるのだ」
両頬を赤く腫らしながら、涙ぐむように第七王子は、カレンを見つめる。
カレンは、第七王子の言葉から、自分の勘違いに気付いてしまった。
…老将軍は、育ての親でしたね。
いつもの威張り散らした空気を感じさせない第七王子に、カレンは詰め寄る。
第七王子は、また殴られるのかと体を震えさせ、目を閉じた。
だが、第七王子の予想は裏切られ、カレンは彼を優しく抱きしめる。
「あなたは、どうしようもなくバカで我儘だけど、同じくらい優しい事を忘れてました。この結果の全ては、私の責任です」
第七王子は、目を開く。
「だからこそ、私は、主君を止めなければいけません」
「吾輩を…主君だと本気で、言ってくれるのか?皆が、影で馬鹿にしているのに」
「ええ、我が主よ」
その情けない表情に、カレンは笑顔で返す。
第七王子は、大きく深呼吸した後、じぃと小さく呟き、
「すまなかった。おまえ達に相応しい王となる事を、約束しよう」
「別に今のままで、構いませんよ」
そして、カレンは戦場を振り返り、
「…負けてしまいましたね」
「目的は、達したのであろう?ならば、勝ちである。そうでなければ、じぃ達は…」
「ええ、ただ戦いには負けました。要塞都市を攻略はできましたので、南方の戦線は進展するでしょうけど…」
だが、ハーフエルフの国へは自らが出向いて頭を下げねばならないと、カレンは先を見据える。
「私も、首を賭けなければいけませんわね」
その呟きを、理解できる者はいなかった。
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