144話 奴隷紋 中編

馬車の前に立つアリスの頭部が、火花を散らすように何度も瞬く。


膝をつくアリスに、ルルは冗談ですよね?と声をかけた。

…反応はない。


異様な雰囲気を察したクリスは、アリス!と叫んだ。

…反応はない。


嫌な予感がしたフィーナは、顔を青ざめて呟く。

…くーちゃん、助けて。


そして、黒髪の少女は、地面に倒れ込んだ。

同時に空から、放り注ぐ隕石。


だが、狙いが定まっていないのか、前方の様々な場所に落ちていった。

一部は白く輝く城壁へ当たり、城壁を吹き飛ばしている。


それを見た騎士団は勇しく叫び、こちらへと突撃してきた。


騎馬の一斉突撃に、大地が揺れる。

アリスは、地面に倒れ込み動く気配がない。


残された3人の少女に、絶望が怒号と共に襲いかかる。


そして…


雲一つない晴天の青空から、一筋の光。

その光が、クリス達の目前まで迫る騎士団に射し込み、包み込むように広がった。


光の柱は、辺りを轟音と共に震撼させる。


「今度はなんだ!?」


空から降り注ぐ隕石を目にして、星落とし…と呟いていたクリスが、驚きの声をあげる。


「名無しさん!?名無しさん!?」


ルルは周りを無視して、名無しの身体を揺する。


フィーナは…


「フフフ…ハーハッハ!儂の名は、クロード・アークリッチ・フォン・デグリエル。魔導の道を歩む者ぞ」


高らかな笑い声と共に、名乗りを上げた。


そして、六芒星が輝く度に光の柱が、人間を消し炭へと変えていく。


そこは、地獄であった。


無人の荒野を歩くかのように、クロードは楽しそうに、目の前の景色を変えていく。


勇しく雄叫びを上げて、突撃してきた騎士達も…


満足そうな顔で、クロードに向かって何かを叫び、大剣を振り下ろしてきた老騎士も…


その奥で、なぜか争っていた兵士達も…


クロードが歩みを進め、視界に映す度に、消し炭へと姿を変えた。


そして、動くもの全てが、黒と灰色の世界へ変わると、


「…邪魔じゃのう」


クロードは、目前に佇む城壁を、見上げる。


先程の老騎士が、には、まだ十分な兵士が待ち構えているぞと、叫んだ言葉を思い出す。


城壁の上では、兵士達が混乱するように、声を荒げていた。


「儂の新しい魔法の的になるがよい」


そう呟いて、空間の魔素を集めるように手をかざす。


空が、赤く染まる。

先程、城壁の一部を吹き飛ばした隕石だ。


それが、無数に空から降り注ぐ。


「面白い魔法を、使いよるわ」


わかりきった結果に興味がないのか、クロードは振り返り馬車へと戻る。


衝撃波が、空間を揺らした。


「くーちゃん、名無しさんが!」

「…ふむ」


倒れ込んだアリスを、六芒星で観察するように覗き込む。


「儂の知らぬ魔法は、儂には見えぬのだ」


心配するルルに、クロードは困ったように告げた。


「くーちゃん…と言ったな?」


そんなやり取りを、クリスは震えた声で呼び止めた。


クロードは、クリスの方を向き、片膝をつく。


「クリスティーナ様、ご安心を。この者が動けぬ代わりに、儂が王都まで、ご案内いたしましょう」


無用な警戒をされないよう臣下のように、クロードは畏った。


その意が通じたのか、クリスから緊張が解ける。


そして、


「宜しく頼む」


クリスはクロードへ、右手を差し伸べた。

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