143話 奴隷紋 前編
小さな街から、東の街道
一夜明け、十分な休息を取った私達は、街を出発していた。
王女殿下の地図が正しければ、この先に大きい川があるようだ。
ラクバールの領外なはずの為、橋がある事は望み薄だが、渡し船を探すか、方法はその時考えよう。
そんな事を考えながら、燃費の悪いサーチ魔法を飛ばすと、大量の反応が返ってきた。
ルルが操る御者の席へと移動し、街道の先へと、目を凝らす。
しばらく進むと、遠くに不思議な城壁が現れてきた。
白く輝く城壁だ。
「なんでしょうかね?」
独り言のように呟くが、当然答えは返ってこない。
「都市国家じゃないですか?」
一呼吸置いて、行けばわかるのですと、ルルが呟く。
変わった城壁だなと思いながらも、馬車は進む。
そして、城壁の全容が見える距離まで近づいた時、街道を塞ぐように布陣する、騎士団と出会した。
ルルが、十分な距離を保ち、馬車を止める。
クリスとフィーナが、どうした?と荷台から、顔を出した。
「私が、行ってきますよ」
盗賊狩りの騎士団なのか、それともラクバールの騎士団なのか。
確認する為に、御者の席から降りる。
そして、一歩前へ進むと、
「とまれぃ!クリスティーナ王女殿下の一行と、お見受けする!」
布陣する騎士達の先頭から、体格の良い老騎士が、こちらへとよく通る声で叫んだ。
こんな場所まで、こんな数の騎士団に追われるなんて、王女殿下は何をしたんですかね?
そんな呑気な事を考えながら、騎士団を見渡す。
警戒しているのか、随分と正確に距離を取られ斬り裂くには、距離が足りなかった。
…今、思えば油断していたんだ。
「ここより先は、我が騎士団と要塞都市が、お主らを阻む!」
気合を入れるかのように、檄を飛ばす騎士達。
奥の城壁の方では、ラッパの音が響き渡り、砂埃が舞っている。
…自分が無敵であると、錯覚していたんだ。
「数百ですか?数千ですか?無駄ですよ」
ただの人間が、数を集まめたところで吹き飛ばす的が、増えるだけだ。
私は、嫌な笑みを浮かべた。
…人間の恐ろしさを、歴史から、よく知っていたはずなのに。
私は、どの魔法で料理しようか、メニューを考える。
広範囲に、焼き尽くすか?
殺陣のように、蹂躙するか?
私の笑みが伝わったのか、騎士団に緊張が走る。
バチッ!!
だが、右手の奴隷紋の色が変わると同時に、私の頭部に電撃のような光が散った。
「ッ!?」
目の前に光が飛び散り、言葉にならない声を上げる。
バチッ!!
三半規管が揺らされたように、目の前の景色がぐるぐると回る。
何度も繰り返すように、音と光が、頭に響く。
その度に、高熱を出した時のような目眩が、身体を無力化していった。
…気持ち…悪い…
歪んだ景色は、大地の感覚を無くしていた。
誰かの叫び声が、聞こえる。
「…ふざ…けんな…」
歪んだ景色に屈服する中、怒りに任せて、魔力を解き放つ。
そして、俺は意識を手放した。
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