142話 外伝 作戦概要
要塞都市ウォール 北の丘
第七王子 補給地 作戦本部 天幕
カレンの不吉な一言に、老将軍は豪快に笑うと、詳しい内容は殿下を交えてという事で、作戦本部の天幕へと移る。
「これより、王女殿下奪還作戦の概要を、説明しますわ」
第七王子を筆頭に、老将軍や騎士隊長達を見渡す。
「まず本陣及び主力は、ここ北の丘に置きます。次に老将軍及び第一騎士団と、第一魔術師隊はこちらへ」
カレンは、地図の上に駒を配置する。
老将軍が配置された駒は、要塞都市の西側であった。
老将軍は、静かにうなづく。
「次に王女殿下の一行は、この更に西側から、来る予定です」
配置された老将軍の西側に、置かれる駒。
「じいを、ここに配置する意味がないのでは?」
第七王子が、老将軍の駒を要塞都市から、更に西に離れた王女殿下の北側に、配置する。
「ここだろう?」
「殿下、王女殿下の護衛に、強力な魔族がいます」
全滅した騎士団の話をするカレン。
「それでは、尚更東から敵の軍、西から魔族の挟み撃ちに合うではないか?」
「賭けになりますが、魔族を無効化する秘策はありますわ、賭けですけどね」
カレンは、頭が痛そうに、眉を歪ませた。
そして、無効化できた場合、必ず殺しなさいと各隊長に告げる。
「つまり、魔族が無効化できれば、東の軍を抑えつつ儂は西の王女殿下を拐い、魔族が無効化できねば、東の軍を巻き込むように、魔族に殺されろという事かのぅ?」
盤上の配置を見て、老将軍は呟く。
「東の軍だけではなく、要塞を巻き込んで下さい。そして、どちらの場合も、可能な限り北へ逃げて下さい」
老将軍は、盤上の配置を眺める。
ここに布陣すれば、要塞都市から軍が出てくる事は、間違いないだろう。
前回の戦争時に、閉じこもる要塞都市に、散々嫌がらせをしたのだ。
そして、前回も北に逃げ…たフリをして、主力の軍で追撃してくる敵軍を、殲滅したのだ。
相手がバカでない限り、北に逃げれば、本気で追って来ない事がうかがえる。
問題は、西の魔族である。
無効化できれば、王女殿下を確保した後に、北に逃走すれば良い。
無効化できなかった場合は…
…老将軍には、死んで頂きたい…
カレンの言葉を思い返す。
「ぼっちゃんの提案する配置の方が、老体には優しそうに見えるがのぅ」
「その配置だと、無効化できなかった場合、確実に戦死ですわ」
カレンは、各個撃破されると言い、王女殿下の駒を、その北側に再配置された老将軍の駒にぶつけた。
そして、老将軍の駒を最初の位置に戻すと、北へ逃す。
そこに生まれた空白地帯に、王女殿下の駒と、要塞都市から出兵されていた駒がぶつかる。
要塞都市の軍と乱戦になっていた方が、まだ生き残れる可能性があるのだ。
もっとも、僅かな可能性であり、
「死ぬなら、敵を巻き込んでという事か?」
「じぃ、不吉な事を言うな」
カレンは、うなづいた。
「あの魔族は、脅威です。もし、あれがハーフエルフと共に、こちらに牙を向くような事になれば、我が国は滅びるでしょう」
カレンの国が滅びるという言葉に、第七王子以外の顔色が変わる。
そんな盤上のジョーカーは、チャンスがあれば排除しておきたいのだ。
予想外という言葉を、カレンは嫌っていた。
同時に、これが正しい選択であるかどうかを、カレンは悩んでいる。
そして、判断をもっとも悩ませているのが、当初の目的が第七王子の私的な我儘で、軍を動かしている点である。
だから、カレンは、
「以上が作戦概要ですけど、殿下、それでもやります?」
最終判断を、第七王子に投げるのであった。
「失敗した時、じぃ達は逃れるのだろうな?」
「絶対はありませんよ。ただ、十分な距離を取る事が重要です。そして、高い練度と士気、有能な指揮官が必要なので、この役目は老将軍にしか託せません」
カレンの答えに、老将軍は、
「智将が、国が滅ぶと断言する魔族が相手とはな。あと何度戦えるかわからない老体には、勿体ない晴れ舞台じゃ」
珍しく悩む第七王子に、老将軍は任せて下さいと自分の胸を叩いた。
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