141話 外伝 要塞都市ウォール

旧ゼロス同盟の東に、1本の川がある。

北の海から、南の大森林まで伸びる川は、その東西を国境のように分断していた。


川の東は、ひきこもりエルフを筆頭に、中央の争いに巻き込まれにくい都市国家群。

西は戦乱真っ只中の都市国家群である。


そして、この川の西側、中流に位置する場所に、それは建設されていた。


要塞都市ウォール


ゼロス同盟時代に、川の東からの脅威に対応する為に、作られた要塞である。


ゼロス同盟時代、つまり建築にはエルフの魔法技術、人間の知恵、獣人の力が関わった集大成だ。


白く輝く特殊な城壁を、カレンは遠く離れた北の丘から、観察していた。


(相変わらず、厄介そうな城壁ですわね)


去年、攻略に失敗した時の、苦い経験を思い返す。

エルフの魔法技術を用いた城壁は、攻城兵器である投石機で、まったく傷がつかなかったのだ。


そして、カレンが開発した魔導砲。

都市国家キヌスの城壁を打ち砕いた兵器も、通用しなかった。


もっとも、魔導砲と銘打ってあるが、大筒に魔術師が砲弾を生成し、爆裂魔法の爆発で飛ばすという、投石機の進化の延長という兵器である。


ただし、爆発力で飛ばすその威力は、投石機の比ではなかった。


それが、弾き返されたのである。


ゼロス同盟時代に作られ、遺跡のように忘れられていた要塞都市を、再利用する。

南方の都市国家にも、秀でた人物はいるようだ。


(教育を重視する共和制の都市国家と、一定以下の素質は間引く、戦闘民族の都市国家でしたかしら?)


台頭する北のラクバールに対抗して、同盟を結んだ都市国家の名前を思い出す。


そして、カレンは、丘の後ろに広がる補給地を見渡した。


軍馬の餌用に植えられた牧草地が、広がっている。


(ここを落とさないと、兵站が繋がらないわね)


戦争で重要なのは、速度であり、兵站である。

カレンは、制圧した地域の各所に牧草地を作り、季節の制約は受けるものの、軍馬の餌という荷物を減らしていた。


馬の餌を減らせる分だけ、人間の食料を、無駄なく運べるのだ。

即ち、最低限の人間の食料だけ抱えて、最速で行軍する事を可能とする。


「後方部隊が、着いたようじゃ」


丘の上で思慮にふけっていたカレンに、登ってきた一人の老騎士が声をかけた。


「そうですか」

「それで、考えはまとまったのかの?」


問いかける老騎士に、


「ええ、老将軍には、死んで頂きたい」


カレンは、答えるのであった。

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