139話 小さな街

あれから、幾度かの夜を超えて、私達は目的地である小さな街へと、辿り着いた。


2階建ての高さしかない、城壁とも呼べない壁。

その周りには、広大な畑が壁に守られる事もなく、広がっている。


人よりも、魔物を警戒するような城門をくぐる。

この世界で初めて入る街という規模に、私は心躍らされていた。


一言で言うと、傭兵の街のような殺気と、傭兵の街にはない喧騒が混じった雰囲気である。


人通りの多いメインストリートは、盗賊らしい風貌の者から、幼さの残る町娘までが、ごちゃ混ぜである。


「治安は、最悪そうですね」


御者の席から、道端で殴り合う男達を見て、漏らす。


「ルルは、好きな雰囲気なのです」


私の横で、馬の手綱を握るルルは、楽しそうに呟いた。


そして、メインストリートの一角に、何台かの荷馬車が停まる建物を見つける。


「ここは、隊商宿ですか?」

「ん?ああ、宿屋だよ」


馬の世話をしている男に声をかけたら、うちに泊まるか?と言われたので、そのまま誘導される。


そして、荷台の中の二人に、


「あまり治安がよくなさそうなので、ローブを深く被った方が良いですよ」


と、告げるのであった。


……

………


宿泊は、スムーズであった。

色々な人間が利用するのか、宿屋の主人も淡々とこなしている。


そして、2階の4人部屋に案内されると…


「名無しさん、ベッドです!ベッドがあるのです!」


文明の素晴らしさを思い出したルルが、嬉しそうにベッドに飛び込む。


「わーい!」


それを見て、フィーナも真似するように飛び込んだ。


元気が良いですね。

まあ、荷台に寝袋で寝る生活ばかりでしたし…。


やっと身体を休められると思い、私は空いているベッドに腰を下ろした。


クリスも、空いているベッドである私の横に、腰を下ろす。


「それにしても、ベッドが2つですか」


2人部屋にも対応する為か、ダブルベッドが2つなのである。


「何か問題があるのか?」


私の横で、クリスが首を傾げる。


この配置だと、今夜はクリスと同じベッドで寝る事になると考えていると、


「クリスは、こっちなのです」


クリスを手招きしたルルが、交代するかのように、私のベッドに座る。


「これなら、問題ないのです」

「まあ、どちらでも良いですけど」


そう答える私に、ルルは冷めた目で、床を指差すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る