138話 外伝 カレンとエルフ

都市国家キヌス

王城の一室


「あー、これは奴隷紋ですね」


連れてこられたのは、年齢不詳の魔導師だった。

ただ、その服装が奇抜である。


おとぎ話に出てくるような、大きな魔法使いの帽子を被り、その帽子に似つかわしい古臭いローブを纏っているのだ。


魔法使いの帽子からはみ出るエメラルドグリーンの髪と、そこから伸びる長い耳が、種族の特徴を現している。

…エルフである。


「奴隷紋とは?」


エルフは変わり者が多いと言うが、研究内容まで変わっているのかと、納得するカレン。


「南のアルマ王国が、武装魔法陣に魔法を仕込んで、奴隷の管理に使ってるんですよー」


これをそんな風に使うなんて、考えた人は天才ですねと付け加える。


「もう少し、詳しく聞きたいですわね」


カレンの言葉に、エルフの魔導師は、話が脱線しながらも説明を続けた。


…仕込める魔法は、2種類

ただ、それも簡素な魔法しか仕込めない為、欠陥魔法として忘れ去られる一因になる。


そして、もっとも欠陥なのは、強化魔法だけでなく、使用者に被害をもたらす魔法や、弱体魔法まで仕込めてしまう点だと、エルフは言う。


「…暗殺に、使えるのですか?」

「直接的には、無理ですね」


エメラルドグリーンの髪をいじりながら、動けなくするとか間接的なのは、色々ありますがと答えるエルフ。


カレンに、閃きが生まれる。


「だけど、武装魔法陣を描くのに時間がかかるから、そういう使い方は無理じゃないでしょうか?」


相手が動かない事が前提だから、そもそもそんな状況なら暗殺できますよね?と、エルフは言った。


「この方には、魔法を仕込めます?」


カレンは、魔道具に映る少女を指差した。

エルフは、少女の奴隷紋を再度確認すると、


「簡単な事です。私なら遠距離から、魔法陣の更新ができますから」


本来は、武装魔法陣を描いた、味方の強化魔法を切り替える事を想定して、研究したらしい。


呪印刻まれし、我が下僕どもが…と怪しく呟くエルフを横目に、カレンは思考を巡らす。


そして、映像を見返すと、


「この魔族の魔法、距離に制約がある気がしますけど、どう思います?」


最初の一振りが、騎馬の前衛にしか届いていない事に、目をつける。

腕の動きに合わせて、直線で何かが飛んでるような魔法にも関わらず、奥の騎馬に届いていないのだ。


「距離を詰めているから、そうなのかもしれませんね?」


返ってきたのは、中途半端な確信であった。


推測の域を出ないと考えながら、カレンは机の上の地図を見る。


都市国家キヌスから南が、王女殿下の現在地だ。

今も東へと、進んでいるだろう。


(この先には小さな街と…あの厄介な要塞都市ですか)


カレンは、思考を加速させる。

リスクとリターンの計算だ。


(あの魔族はここで逃せば、次の機会はないかもしれません)


目の前のエルフから、武装魔法陣はわかる者なら簡単に解除できると、先程説明されたのだ。


(そして、王女殿下の進路は、このまま向かうと要塞都市…地図に載る事もないから、知らないのでしょうか?)


思考を加速させ、可能性を模索する。

そして、カレンは決断を下した。


同時に最後の疑問を、目の前のエルフに投げかけた。


「あなたはどうして、この研究を?」

「カッコいいからです!」


この紋様見て下さいよ!と、嬉しそうに黒い手袋を外す。

カレンは、やはりエルフとは変わり者が多いと、実感するのであった。

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