134話 束の間の休息

隊商宿2階 個室


遠くから聴こえる鐘の音と、射し込む光に、私は目覚めた。


快適とは言い難いが、寝袋より幾分もマシな布団から、頭を起こす。


部屋を見渡せば、泥酔したまま布団にたどり着いたらしいルルが、だらしない格好で眠っている。


酒を飲まないフィーナは、私達より早く寝たはずなのに、まだ気持ち良さそうに布団に潜り、夢の中だ。


そして、クリスはというと私と同じタイミングで目が覚めたのか、布団の中から、体を起こしていた。


まだ頭が覚めてないのか、肩がはだけて下着が露わになっている。


「おはよう、クリス」


そう声をかけると同時に、肩を指差してやる。


「おはよう…あぁ」


私のジェスチャーに気づいたのか、クリスは肌着を整えて、


「こんな姿を侍従長に見られたら、卒倒されるな」


何が面白いのか、 声を殺して笑い出した。


「この部屋を見ただけで、卒倒しそうですけどね」


調度品もなければ、優雅さのかけらも無い敷布団で、王女殿下が雑魚寝しているのだ。


「アハハ、そうであろうな」


そして、今度はその光景を想像したのか、声を押し殺す事もなく無邪気に笑う。


そんな王女殿下を尻目に、私は身支度を整え出した。


……

….……


半刻後


1階の酒場で朝食を取っていると、ようやく起きた二人と一緒に、クリスが降りてきた。


「私は、もう食べてしまいましたよ」

「ルルは、食欲がないのです…」


飲みすぎなんだよと思いながら、3人が席に着くのを待つ。


フィーナとルルは、給仕の女性に野菜ジュースを注文していた。

クリスは朝から、ガッツリと食べるようだ。


そして、クリスが持つ地図を広げる。

縮尺もない、実に大雑把な地図だ。


私が記憶している傭兵ギルドの地図と、都市国家が微妙に違う箇所もあった。


ただ、この辺りは戦乱の真っ只中である為、どちらが正しいのか、または両方が間違ってるのかの判断はつかない。


特に小さな街は一夜にして、消える事もあるのだ。


そして、今いる都市国家から南東に進むと、小さな街の名前が記してある。


その街からすぐ北は、ラクバールの勢力圏内だ。

またすぐ南は、都市国家群の紛争地帯という、実に微妙な位置に街はあった。


もっとも、そんな立地だから、発展の乏しい小さな街なのかもしれない。


そして、その先の川を越えれば、ラクバールの勢力圏内からは、完全に抜けるだろう。


「この街に向かうのが、最短に見えますね」


どの程度の日数がかかる距離かは、わかりませんがとつけ加える。


「主人に聞いてみるのが、よいだろう」


冒険の基本だぞと、クリスが鶏肉を頬張りながら、言うのであった。

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