第96話 はじめての傭兵ギルド

領主の館の文字を背に、ボロ屋を出る。


ルルとフィーナは眠そうな目をこすりながら、買ったばかりのブレスレットをつけていた。


特になんの変化もないですね?


同じく右手に装着した自分の腕輪を眺める。


「次はどこに行くの?」


まだ眠そうな目をこすりながら、フィーナが問いかける。


「向かいにギルドがあるらしいので、とりあえずそこですね」


そう告げ、人通りの少ない大通りの対面に視線を泳がす。


「…ん」


人族と比較にならない視力を持つルルが、すぐに目的の建物を見つけ、指で示す。


その指し示す場所に歩みを進めると、


「…領主の館より、ずっと立派ですね」


一見、大きな宿屋に見える立派な館だ。

建物の右端に位置する扉の横には、綺麗な文字で傭兵ギルドと書かれていた。


厚い木の扉に手を掛けて、足を踏み入れる。

中は外観どおり、広々としたスペースだった。


扉の正面の奥にはカウンターがあり、その裏には事務スペースに繋がっていると思われる扉が見えた。


入って左側を見ると、病院の待合室のように椅子と机が綺麗に並べられ、病院の待合室には似つかわしくない屈強な男達が雑談を交わしている。


その先には二階に繋がる階段が見えた。


「傭兵ギルドですか」


屈強な男達を観察しながら、外の文字の正しさを実感する。


領主に仕事と住む所を聞いたら、案内されたギルドが傭兵ギルドなのだ。


あの領主は何を考えて、ここを案内したのだろうと思案していると、


「おい、邪魔だぞ」


後ろから、野太い男の声がした。

振り返ると扉の先に、中に入ろうとしている武装したスキンヘッドの男の姿。


「ああ、すみません」


扉を塞ぐ形で立ち止まっていたので、道を譲る。


「うん?新入りか?」


すれ違いざまに、こちらを一瞥したスキンヘッドが、声を掛けてきた。


「はい。領主様にこちらを案内されました」

「ははは、それはなんて言うか、災難だったな」


領主の名前が、どれ程トラブル回避の意味を持つかわからないが、誤解のないように伝えると、男は思うところがあったのか笑顔を見せる。


「どうせ、また丸投げされたんだろ?ほら、ついてきな」


正面のカウンターに歩き出すスキンヘッドの男は、振り返らずに手招きした。

私達は、黙ってそれに従う。


「姐さん、また仕事ですぜ」


カウンターには一人のエルフが、忙しそうに視線を下に向け、手を動かしていた。


「うん?サムソンか。見ての通り私は忙しい」


領主と同じエメラルドグリーンのエルフは、スキンヘッドの男を一瞥すると木の札を渡し、また視線を下に向ける。


「いつも通り番号順だ。並べ」

「へい、いや、仕事っていうのは新入りです。いつもどおり領主様の被害者のようで」


サムソンと呼ばれた男がそれを伝えると、エメラルドグリーンのエルフは長い耳を、ピクりと動かす。


そして、手を止めるとカウンター越しにこちらに視線を移した。


目が合う。

例外なく美しい顔の女エルフだ。


「あのバカは、また私の仕事を増やしやがって…」


絶世の美女と言っても差し支えのない顔からは、想像もできない罵りの言葉が聞こえてきた。


「番号順だ。並べ」


そして、私はスキンヘッドの男と同じ言葉を告げられた。

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