第91話 領主と魔法の腕輪

「ええ、そうですけど?」


右手の奴隷紋に視線を感じて、警戒して答える。


「あら、ごめんなさいね。変わった刺青だと思って見ちゃったわ」


客商売だから、相手の空気に敏感なのだろう。

女性は可愛らしく謝罪の言葉を述べる。


「どうしてルル達が、初めてだと思ったのです?」

「あなた達、これしてないもの」


そう言って、女店員は右手首を強調する。

そこには、小さな魔石がはめられたブレスレットがあった。


「これはね、領主様が配ってる魔法の腕輪なのよ。この町に滞在するなら、買っておいた方がいいわ」

「魔法の腕輪?」


忠告するように説明する女店員に聞き返す。


「ええ、効果は妖精さんに守って貰えるのよ」

「妖精さんに会えるの?」

「会えるのは、悪い子だけだけどね」


フィーナの子供のような期待感に、女店員は意味深な笑みを浮かべて答えた。


「わたしはいい子なの」

「詳しくは、領主様に聞くといいわ。変人だけど、おしゃべり好きだから」


魔法の腕輪に妖精か。

なんの事かさっぱりわからないなと思いつつ、出てきたサラダをつまむ。


半分ほどサラダがなくなったところで、食事を済ませた後ろの男達が、店から出て行った。

連れの女はテーブルに座り、飲み物を片手に手を振って男達を見送っている。


獣人の男を、ルルが目で追う。


「あなたも獣人かしら?」


それを見ていた女店員が、ルルに問いかけた。


「……」


ルルは答えなかったが、


「そんなに警戒しなくても、いいのよ。この街じゃ人族以外も珍しくないからね」


初めてこの街に来る人族以外は、あなたみたいにフードを深く被ってるから、わかるよと告げた。


「ルルは獣人です」


深く被ったフードを降ろす。


「わたしはハーフエルフなの」

「…ハーフエルフは珍しいわね」


それを見たフィーナも勢いよく降ろすが、女店員は久々に見たと、フィーナの顔をまじまじと見ていた。


「まあ、領主様がエルフだし、北のエルフの国が近いから、そんなに変わらないわよ。それにしてもエルフってのは美形ばかりなんだねぇ」


女店員は、フィーナの顔を羨ましそうに見ている。


「エルフか。その辺りの事も聞きたいですね」


私は、葡萄酒のおかわりを注文した。


「それだったらねぇ。アンナ、お客さんだよ」


そう言って俺達の後ろで、残った飲み物を楽しむ赤髪の女に声をかけた。


「はいはーい。いらっしゃいませ、お客さん。四半刻銅貨20枚で、情報屋のあたしが何でも話しますよ」


アンナと呼ばれた女は砂時計を片手に、嬉しそうな顔をしていた。

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