第92話 勢力図

傭兵の街


元ゼロス同盟の領土の中央に位置する。

北にエルフの都市国家群。

西に獣人の都市国家群。

東に人族の都市国家群。


東の果てにある砂漠に面した、ひきこもりエルフの都市国家など、小さな種族の国は大小様々にあるものの、100年余りの戦争を経て勢力図は、大きく三分割にされている。


もっとも獣人は獣人の都市国家同士で、人族は人族の都市国家同士で戦争は続いているようだ。


30分銅貨20枚と飲み物を1杯奢るという契約で、私はアンナと呼ばれた情報屋から、限られた時間を有効活用していた。


ちなみにフィーナとルルは、カウンターの離れた席で肉料理とパンに夢中だ。


「次は、この街の事を知りたいですね」

「また漠然とした質問だねー。まあ、新入りから聞かれるいつもの事だから、いいけどさ」


アンナは、飲み物を片手に笑う。

砂時計は、残りわずかとなっていた。


「大事な事は3つよ。夜は出歩くな。街の入り口は安全だけど、慣れるまで街の奥には行くな。領主様から、魔法の腕輪を買え。以上よ」


ここは傭兵の街だからねと、真剣な表情で彼女は付け加えた。


「わかりました。領主様の館はどちらに?」

「…館ねぇ。この店を出て真っ直ぐ歩けば、右手に見えて来るわ。…あれが、館ねぇ」


思い出し笑いをして、ケラケラと笑っていた。


「ありがとうございます。これは気持ちです」


砂時計が終わりを告げたので、アンナに追加で銀貨1枚を渡す。

有益な情報をくれる者とは、良い関係を築いておきたいのだ。


「いいのかい?また利用してくれよ。良い情報を仕入れとくからさ」

「ええ、その時はお願いします」


任せてと親指を立てる彼女に、


「最後に領主様の事を聞いても?」

「変わった人だけど、悪い人じゃないわ。寂しがりやの変人よ、変人」


そして、お腹を満たした私達は赤髪の女に見送られながら、店を出た。


アンナの言葉に従って、広いメインストリートを真っ直ぐと進む。


「ルルは今、とても幸せを感じてます」

「お腹いっぱいで、眠いの」


フードを降ろした二人の少女が、お腹をさすりながら続く。

少し歩くとアンナの言葉どおり、目的地が見えてきた。


「領主の館 はじめての人は絶対来てよー?」


フィーナが不思議そうな顔をして、看板を読む。

ルルは、怪しむようにジト目でそれを注視する。


それもそのはず、看板が立てられた、ただのボロい一軒屋だったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る